野球「エース」の語源は伝説の投手エイサ・ブレイナードに由来?WBC開幕で深掘り
野球「エース」の語源は伝説の投手エイサ・ブレイナードに由来

野球「エース」の称号、その意外な起源を探る

野球観戦をする人なら誰もが一度は耳にしたことがあるだろう、「エース」という称号。チームで最も頼れる投手を指すこの言葉は、大リーグでも最優秀投手を表す際に用いられる。しかし、なぜ「エース」と呼ばれるようになったのか、その由来についてはあまり知られていない。きょう5日から始まる野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を機に、この称号の起源について深く掘り下げてみた。

トランプ説ではなく、伝説の投手に由来する有力説

「エース」の語源について、「トランプで『A』が一番強いから」と考える人は多いかもしれない。しかし、実際には全く別の有力な説が存在する。文京区の野球殿堂博物館を訪ねると、学芸員の茅根拓さん(43)が興味深い資料を紹介してくれた。

米国で最も信頼される野球辞典「ディクソン・ベースボール・ディクショナリ」の「エース」の項には、その語源が一人のレジェンド投手によるものだと記されている。その名はエイサ・ブレイナード。彼はシンシナティ・レッドストッキングスの投手として、1869年に57試合中56勝という圧倒的な成績を収めた。この輝かしい活躍により、その後優れた勝ち星を挙げる投手は「エイサのようだ」と呼ばれるようになり、やがて言葉が変化して「エース」と呼ばれるに至ったという。

ブレイナードのファーストネームは「アサヘル」で、「エイサ」はその愛称だとされている。年間56勝という記録は、現代の野球では考えられないほどの驚異的な数字だ。別の資料には65連勝したという記述もあり、彼がいかに卓越した投手であったかを物語っている。

野球草創期の投手としての革新性

しかし、ここで重要な点がある。1869年当時の野球は、現代とはルールが大きく異なっていた。投手は下手投げが義務付けられており、打者が打ちやすいボールを投げることが求められていた。つまり、ブレイナードの56勝は、この制約の中で成し遂げられた偉業なのである。

茅根さんは、この時代に投手と打者の駆け引きが始まったと推測する。「ルール上は下手投げでしたが、投手も打たれたくないという思いはあったはずです。手首のスナップを利かせたり、カーブなどの変化球を使う投手が現れ始めていたと考えられます。ブレイナードも間違いなく、そうしたテクニックを駆使していたでしょう」。

当時、全米唯一のプロ球団だったレッドストッキングスは、各地を旅しながらアマチュアチームと対戦していた。プロとしての威信をかけて、ブレイナードはあらゆる手段で勝利を追求したに違いない。彼は、野球に駆け引きという新たな要素を持ち込み、ゲームをより面白くした革新者の一人だったと言える。

多様なスポーツへ広がる「エース」の称号

興味深いことに、同辞典によれば、テニスでレシーバーが触れずに得点が入るサーブを「エース」と呼ぶようになった初出は1885年とされている。「エイサのエース」と「トランプのエース」という二つの概念が相乗効果を生み、多様なスポーツにこの称号が波及していったと推測されている。

現在では、野球に限らず、チームで最も優れた選手を指す言葉として「エース」が広く用いられている。ブレイナード自身、自分の名が後世でこれほどまでに連呼されることになるとは、夢にも思わなかっただろう。

WBC開幕、日本のエースに期待

さて、いよいよ東京ドームでWBCの幕が開く。勝敗を左右する鍵は、やはり投手力にある。日本のエース・山本由伸投手には、エイサ・ブレイナードのような圧倒的な活躍が期待される。連覇を目指す日本代表は、あす6日に台湾と対戦する。歴史に名を刻む「エース」の誕生を、ぜひ見届けたい。