戦時下のウクライナから届く熱い声援 大関・安青錦の綱とり挑戦を支える絆
大相撲春場所が8日に開幕し、大関・安青錦が待望の綱とりに挑んでいる。ウクライナ出身の力士として異例のスピード出世を続けてきた安青錦の活躍に、故郷ではロシアによる全面侵攻が5年目に入った今も、かつて彼が稽古に励んだジムの恩師や仲間たちが熱いエールを送り続けている。
春の訪れと共に響く土俵の音 ビンニツァのジムで続く相撲練習
ウクライナ中部の都市ビンニツァ。3月1日から始まる「春」の季節を迎え、道路を覆っていた雪は溶け、カフェのテラス席でくつろぐ市民の姿も戻りつつある。そんな3月3日の夕暮れ時、競技場に併設されたジムでは、7歳から26歳までの男女16人が「まわし」を着け始めた。
レスリングマットの上に手作りのカバーを敷けば、即席の「土俵」が完成する。「礼」の掛け声と共に練習生たちが頭を下げ、「イチ、ニ、サン」の号令で準備運動が始まる。四股やすり足、そして本番さながらの「取組」で体を鍛え上げる。バチンッという体のぶつかり合う音が、ジム中に力強く響き渡る。
「現場から強いのにシャイ」 あだ名は「ボス」だった安青錦
このジムで安青錦(本名・ヤブグシシン)を指導してきた恩師やかつての仲間たちは、彼のことを「現場からは強いのに、普段はとてもシャイな青年だった」と振り返る。あだ名は「ボス」。その名の通り、稽古場では誰よりも厳しく自分を追い込み、リーダーシップを発揮していたという。
初土俵からわずか16場所目での大関昇進という驚異的なスピード出世を支えたものについて、関係者は「並外れた努力と、どんな逆境にも屈しない強い精神力にある」と語る。戦時下という過酷な環境にあっても、故郷の人々は安青錦の活躍を心から誇りに思い、「必ず横綱になれる」という確信を抱き続けている。
侵攻5年目を迎えるウクライナから 越境する応援の輪
ロシアによる全面侵攻が5年目に突入したウクライナでは、日常のいたるところに戦争の影が色濃く残る。それでもビンニツァのジムでは、安青錦がかつて汗を流した同じ土俵で、後輩たちが懸命に稽古に励んでいる。
恩師の一人は「彼の成功は、私たちすべてにとって希望の光だ」と語り、もう一人の指導者は「ウクライナの苦難を乗り越える強さを、彼は相撲の世界で体現している」と感慨深げに話す。ジムの練習生たちも、遠く離れた日本で戦う先輩の勇姿に刺激を受け、自分たちの稽古に一層熱が入るという。
春場所での安青錦の活躍は、単なるスポーツの話題を超え、戦時下にある祖国と在外ウクライナ人を結ぶ特別な絆となっている。ビンニツァから送られる「ボス、頑張れ」の声援は、日本とウクライナを越え、力士一人の挑戦を温かく包み込んでいる。



