五輪メダリストを輩出する「温泉村」の挑戦 スキーと英語で次世代を育む
温泉村がスキーと英語で次世代を育成 五輪メダリスト輩出の地

五輪メダリストを生み出す「温泉村」の教育革命

雪に覆われた斜面を、優雅な弧を描きながら滑り降りる子どもたち。長野県野沢温泉村では、スキーが単なるスポーツではなく、教育の核となっている。1924年に開業したスキー場を擁するこの村は、古くから「スキーの村」として知られ、国内外から多くの観光客が訪れる温泉街でにぎわいを見せている。

スキー科設立による一貫教育の実践

2013年、村は画期的な教育機関「野沢温泉学園」を開校した。こども園から小学校、中学校までの一貫教育を提供し、翌年には文部科学省が認定する教育課程特例校として、全国でも珍しい「スキー科」を設立。保育園の年長から中学3年生まで、アルペンスキーやクロスカントリースキーを継続的に学ぶカリキュラムを導入している。

2026年1月中旬、中学校では今シーズン初めてのスキー授業が実施された。インストラクターから体重のかけ方や姿勢など、細かな技術指導を受ける生徒たちの姿があった。中学1年生の林あい咲さんは「もっと上達して、将来は人に教えられるようになりたい」と意欲を語る。この言葉は、村が目指す人材育成の成果を如実に示している。

インバウンド対応と英語教育の強化

観光客の増加を背景に、英語教育にも力を入れている。スキー科の教育目標には「子どもたちが野沢温泉スキー場のコンシェルジュとして振る舞える能力を養う」と明記。国際的な環境で活躍できる人材の育成を目指している。

ミラノ・コルティナ五輪のスキージャンプで銅メダルを獲得した丸山希選手をはじめ、数多くの五輪選手やスキー界を支える人材を輩出してきた実績を持つ。しかし、地球温暖化や少子化の影響により、スキー産業を取り巻く環境は厳しさを増している。

変化する環境と持続可能な未来への模索

日本のスキー人口は、ピークだった1993年の1860万人から約8割減少。村の人口も1950年の約6700人から約3600人まで減少した。2025年度時点で、野沢温泉学園に通う子どもの数は、こども園・小学校・中学校を合わせて286人となっている。

さらに、2024年には全国中学校体育大会の競技種目からスキーが外れることが発表された。スキー競技の拠点開催地として、毎年2月に生徒たちが運営を手伝い大会を支えてきたが、2029年度を最後にその役割に区切りが訪れる。

一方で、「子どもたちの夢をなくさないように」と、村出身で県スキー連盟顧問の河野博明さん(74)を中心に、大会存続を模索する動きも始まっている。日本にスキーが伝わって110年あまりが経過した今、次の100年を担う人材を育てる村の取り組みは、新たな課題に直面しながらも確実に前進を続けている。

白銀のゲレンデと温泉街が調和するこの小さな村は、伝統と革新を融合させた教育モデルを通じて、スポーツと地域の未来を切り開こうとしている。スキー板を履いた子どもたちの笑顔が、厳しい環境変化の中でも希望の光を灯し続けている。