扇谷健司審判委員長、誤審の経験と選手への謝罪を率直に語る
日本サッカー協会(JFA)審判委員会の扇谷健司委員長が、読売新聞ポッドキャスト「ピッチサイド 日本サッカーここだけの話」に出演し、審判員としての道のりや誤審の経験、未来のサッカー環境に向けた取り組みについて語った。扇谷氏は、選手から審判へ転身した経緯や、今も心に残る誤審のエピソードを明らかにし、審判の役割と責任について深く考察した。
選手から審判へ:立場の変化と苦悩
現在、国内には審判員と審判指導員を合わせて約31万人が登録されており、JFA審判委員会はJリーグやWEリーグから育成年代まで、全てのカテゴリーの審判を統括している。扇谷氏は、学生サッカーやフジタスポーツクラブ(現・湘南ベルマーレ)での選手経験を経て審判に転身した。当時のJリーグが選手経験者を審判に育成する方針を掲げていたことも後押しとなり、扇谷氏は「裁かれる側」から「裁く側」へと立場を変えた。
フジタでは、日本代表でプレーした名良橋晃氏や名塚善寛氏らとチームメートだった経験を持つ。扇谷氏は「岩本輝雄とか、野口幸司とか、ちょっと次元が違うなっていうか、この人たちにはかなわないと思いましたね」と当時を振り返る。選手から審判への気持ちの切り替えについては、「すんなりとはいかないですよね。ちょっと前までは、どちらかというと審判に文句を言っていた側でした。なかなか最初は難しかったです。選手の時は考えなかったが、なぜファウルなのかという自分の中でのすり合わせをするのがすごく難しかった」と苦労を語った。
選手引退後もベルマーレに残って働きながら審判として笛を吹いていたが、Jリーグを担当する機会が増えたタイミングで、ベルマーレを退職した。その理由として、「他チームから『あのレフェリーは、ベルマーレのレフェリーでしょ』ってなるので」と説明。その後、イベントの会場設営の会社に勤めながら、休日に審判をするという生活を続けた。
誤審の残像:川崎フロンターレ-名古屋グランパス戦での経験
審判も人間であり、誤審は避けられないものだが、扇谷氏は2011年に等々力陸上競技場(川崎市)で行われたJリーグの川崎フロンターレ対名古屋グランパス戦での誤審について、「今でも残像が残っている」と明かした。この試合では、川崎の田中裕介選手がハンドで得点機会を阻止したという判断で、レッドカードを提示し、退場を宣告した。
扇谷氏は「名古屋がシュートして、私は田中選手の手に当たったと思った。迷いなくPKを取って、退場ですと宣告しました」と当時の判断を振り返る。しかし、試合後に映像を確認したところ、ボールは田中選手の肩に当たっていたことが判明した。扇谷氏は「等々力なので、普通は試合後に武蔵小杉の駅までタクシーで帰りますが、川崎サポーターが多いので、遠くの川崎駅まで出て帰りました。そこから一人、ずっと何も考えられない。『やってしまったな』と思いました」と、深い反省の言葉を口にした。
さらに、扇谷氏は審判の現場を退いた後、田中選手と都内の喫茶店で偶然会い、当時の誤審をあらためて謝罪したというエピソードを語った。「喫茶店で『あ、扇谷さん!』って言ってくれて。そのときに本当に申し訳なかったという話をあらためてしました。田中選手は『全然いいんです』みたいに言ってくれて。そういう言葉をもらえて、何かが解決するわけではないけど、気持ちは全然違う」と、選手の寛容さに感謝の意を示した。
より良いサッカー環境に向けた審判委員会のビジョン
JFA審判委員会は「審判委員会のビジョン2030」を策定し、公平で安心安全な試合を楽しめるように、審判員の育成などを推進している。扇谷氏は「地元の小学生の試合の審判員もいるし、女子の審判員もいます。審判が安全に楽しんでやれる環境づくりを掲げてやっています」と説明した。
審判を取り巻く環境も変化しており、扇谷氏は「審判に対する期待が年々上がっています。批判というより、期待だと思っています。審判も試合を楽しめないと、良い試合は作れないと思います。審判もどんどんアップデートが必要になっています」と指摘。審判は瞬時の判断を要求され、批判も受けやすい立場だが、「なかなかうまくいかないジャッジもある。でも、日本のサポーターはそういうことへの理解は高いと思いますし、非常に感謝しています」と述べた。
また、扇谷氏は「レフェリーに興味を持ってくれる方がすごく増えたと思っていて、それも本当にありがたい。ミスジャッジがあった時にはブーイングも出るでしょうし、それで良いと思っています。それがサッカーの良さだと思っています。もしよかったら、良いジャッジした時には、拍手なんかもらえたらうれしいなって思います。日本のサッカーを良くするために皆さんと一緒にやっていきたい」と、審判とファンの関係性についても言及した。
扇谷健司氏のインタビュー全編は、ピッチサイド公式YouTubeチャンネルやスポティファイ、アップルポッドキャストなどで配信されている。出演者や番組へのメッセージも募集しており、詳細は公式サイトから確認できる。
プロフィール:扇谷健司(おおぎや・けんじ)
JFA審判委員会委員長。青山学院大卒業後、フジタスポーツクラブ入社。1994年に4級審判員を取得し、99年に1級取得。2003年からJリーグ主審。07~17年にプロフェッショナルレフェリー。07~10年は国際審判員としても活躍。22年から現職。1971年生まれ。神奈川県出身。



