看護師自殺、パワハラ原因で遺族が病院提訴 コロナ検査での医師叱責が引き金
大津赤十字病院(大津市)で勤務していた看護師の女性(当時41歳)が、救命救急医からのパワーハラスメントを原因としてうつ病を発症し、自殺に至った問題で、女性の遺族が2026年2月18日、病院を経営する日本赤十字社に対して約1億800万円の損害賠償を求める訴訟を大津地裁に提起しました。関係者への取材により明らかになった事態は、医療現場における深刻な人権問題を浮き彫りにしています。
コロナ検査中の叱責が引き金に
訴状によれば、事件の発端はコロナ禍の2021年3月8日にさかのぼります。当時、呼吸器内科の看護師として働いていた女性は、新型コロナウイルス感染の疑いがある患者のPCR検査を行うため、患者を救急外来に連れて行きました。女性は感染対策として防護服を着用していましたが、手袋をしたまま処置室のカーテンに触れた際、救急科部長を務めていた男性医師から「何をしているんだ! 感染対策がなっていない」と激しく怒鳴りつけられたとされています。
さらに、男性医師は「おまえがコロナを広げるんや! 救急は大変なんやぞ」と怒鳴り続け、女性が壁際まで後ずさりすると「汚いやろ! 壁に触るな」と叱責。女性が退室する際には、感染対策マニュアルの映像を大音量で流すなど、執拗な嫌がらせを行ったと訴えられています。この一連の行為が、女性に深刻な精神的苦痛を与える直接的な原因となったのです。
うつ病発症から自殺、労災も認定
女性は3月11日に精神科を受診し、15日以降は欠勤を余儀なくされました。そして、4月18日には自宅で命を絶つという悲劇的な結末を迎えました。遺族は労災申請を行い、滋賀労働保険審査官は2024年5月、コロナ対策の過重な負荷と男性医師の叱責という「一連の負担」が自殺の原因であると認め、翌月には遺族補償が支給されました。この認定は、職場環境が心身の健康に与える影響を公的に裏付けるものとなっています。
訴状では、遺族側がその場にいた別の看護師への聞き取りなどを根拠に、うつ病の原因は男性医師によるパワーハラスメントであったと強く主張。過去にも同医師の言動によって精神障害を生じさせた看護師が存在したにもかかわらず、病院側が適切な対応を怠り、パワハラを容認してきたとして、組織的な責任を問うています。
遺族の悲痛な訴えと病院の対応
女性の夫は取材に対し、「パワハラを受けてから妻は救急車のサイレンを聞くだけで全身が震え、見るに堪えない状況でした。組織の体質や管理体制の問題を明らかにし、再発防止につなげてほしい」とコメント。事件の背景には、個人の問題を超えた職場全体の風土や管理システムの欠陥が潜んでいることを指摘しています。
一方、日本赤十字社は「訴状が手元に届いていないため回答は差し控えさせていただきます」と述べ、現時点では具体的な見解を示していません。今後の裁判の行方が、医療機関の責任の在り方に大きな影響を与えることが予想されます。
この事件は、医療従事者への過酷な労働環境とパワハラ問題が、命に関わる深刻な結果を招きうることを社会に突きつけました。遺族の提訴は、単なる損害賠償を超え、職場の安全と尊厳を守るための制度的な変革を求める声として響いています。



