警視庁池袋署で被疑者ノートが一時紛失 被告男性が強い不安を訴える
警視庁池袋署員が昨年12月、麻薬取締法違反容疑で逮捕・勾留中の30代男性から預かった「被疑者ノート」を夜間に一時紛失していたことが明らかになった。このノートは容疑者本人が取り調べの内容や疑問点を記録し、弁護士と情報共有する役割を持つ重要なもので、警察が中身を確認することは認められていない。同庁は「担当者が保管場所を勘違いしていた。中身は見ていない」と説明しているが、男性は「中身をのぞかれたかもしれないという不安で、以降は弁護士との相談を書き込めなくなった」と深刻な影響を語っている。
ノート紛失の経緯と男性の証言
同庁留置管理1課によると、昨年12月7日深夜、弁護人との接見を終えた男性が同署留置場の自室に戻る際、署員がノートを預かって室外のロッカーに保管すると申し出た。男性は応じたが、翌8日午前8時ごろにロッカーを確認するとノートがなく、35分後に別人のロッカーから発見された。担当者が別人のロッカー番号を男性の番号だと思い込み、誤って入れていたという。
男性によると、ノートには取り調べや弁護人とのやりとりを詳細に記録していた。6日までは警察に居室の鍵を開けてもらった上で、自分でロッカーに入れていたが、回収の申し出には疑問を感じつつも「従わないといけないと思った」と振り返る。この事件以降、男性は「取り調べにも応じられなくなった」と話し、同法違反罪で起訴された現在も心理的負担が続いているという。
警察側の説明と法的背景
留置管理1課幹部は「男性に早く寝てもらうとともに、夜間に物音を立てさせないために担当者が預かった」と説明。回収は刑事収容施設法に基づくとした上で「ロッカーへの入れ違いのないよう、指導教養を徹底する」と述べた。被疑者ノートは憲法に由来する「接見交通権」を確保するため使われ、夜間の回収は各地の警察で通例化している。
警察側は「自傷や他害の危険をできるだけなくす必要がある」と主張する一方、弁護士や識者は「中身を見られるかもしれないという懸念自体がノートの使用を萎縮させる」と一律回収を問題視する。熊本簡裁は昨年11月、警察署での就寝中の回収が接見交通権を侵害する恐れがあると認め、勾留先の変更決定を出したが、熊本県警は「法令に基づいている」として運用を維持している。
全国的な問題と過去の違法事例
先月24日には、佐賀県弁護士会が同様の運用をする佐賀県警に見直しを求める声明を発表。容疑者が夜間にノートを自室内で管理するよう要望したが拒まれた事例があったためだ。警察庁は熊本簡裁の決定後、都道府県警にノートの適正な取り扱いを改めて求めたが、夜間の回収は禁じておらず、全国で同様の運用が続いている。
警察による被疑者ノートの違法な取り扱いは相次いでおり、2024年の札幌地裁判決は北海道警がノートを15分間持ち去った行為を「接見交通権を侵害した」として賠償を命じた。2023年の横浜地裁判決は、神奈川県警がノートの一部を黒塗りにさせたことを違法と認定している。
専門家の指摘と今後の課題
近畿大学の辻本典央教授(刑事訴訟法)は「ノートは取り調べ内容を後から証明できる重要なもの」と強調。「留置場内という弱い立場の容疑者らに使用を萎縮させること自体が接見交通権の侵害になる。個別事情を踏まえて警察が預かることはあるだろうが、一律に回収するのは問題だ」と指摘する。
この事件は、被疑者の権利保護と警察の安全管理のバランスが問われる課題を浮き彫りにした。今後も全国の警察で同様の紛失や違法行為が起きないよう、適切な管理と運用の見直しが求められている。



