東京・武蔵小山、再開発の波に揺れる商店街 チェーン店増加に危機感
武蔵小山、再開発で商店街変貌 チェーン店増加に危機感

東京・武蔵小山、再開発の波に揺れる商店街

なじみの店が消え、タワーマンションが立ち並ぶ。東京の歴史ある商店街にも、再開発の波が押し寄せている。「街の顔」とも呼ばれる商店街は、どのような未来を迎えるのか。現地を訪ね、その実情を探った。

駅前の商業モール、閑散とする現実

タワーマンションが林立する武蔵小杉(川崎市)から東急目黒線で8駅先。同じく「ムサコ」の愛称で親しまれる武蔵小山(東京都品川区)でも、近年急速に開発が進んでいる。武蔵小山の象徴は、駅前から延びる都内最長800メートルのアーケード商店街「パルム」だ。再開発により6年前、商店街の入り口に41階建てのタワーマンションが建設された。

4月の昼下がり、そのタワーマンションを訪れると、1~3階に入る商業モールは駅前にもかかわらず閑散としていた。1階の一等地にあるスペースは真っ暗で、「テナント募集」の貼り紙が貼られている。2階、3階にも空きテナントが散見され、活気がない。

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「店はコロコロ変わるし、入ってくるのはチェーン店ばかり。駅前がきれいになったのは良いけれど、『これじゃ失敗だ』とお客さんも言っているよ」。商業モールの向かいで洋傘店を営む村田安聡さん(73)は、そう語る。かつて駅前は、小さなバーやスナックなど約200軒がひしめく飲食店街だった。道が狭く木造建物が密集しており、地元からも防災対策として再開発を望む声が上がっていた。しかし、当時営業していた店のほとんどは再開発で姿を消した。

高騰する賃料、個人店には厳しい現実

かつて駅前で飲食店を営んでいた男性(43)は、少し離れた裏通りに移転した。商業モールに入居しなかった理由を、こう明かす。「開発が終わるのを待っていられず、新しい場所で始めた。新しくできた場所は雰囲気がきれいすぎて、賃料も高いだろうと思った」。同じく駅前で商売していた片岡小百合さん(72)=仮名=は、再開発で商業モールの1フロアを取得したが、飲食店に貸している。その店もチェーン店だ。賃貸収入で生計を立てるようになっても楽ではない。商業モールに移ってから管理費が徴収されるようになり、最初は月4万円だったが、数年で約6万円に。数年後には10万円になると言われ、利益は目減りする一方だという。片岡さんは「家賃や管理費が高くて、個人で商売するのはとても無理。チェーン店しか残れないでしょうね」と話す。

チェーン店化の波は、パルム商店街本体にも広がっている。武蔵小山駅周辺では近年、相次ぐマンション開発に伴い地価も上昇。特に、駅前が再開発された2020年ごろを境に一気に高騰した。20年前は1平方メートル112万円だった駅前周辺の小山3丁目の公示地価は、2026年には1平方メートル228万円にまで上がっている。地元の複数の不動産会社に話を聞くと、商店街のテナント賃料も上がっているという。ある不動産会社の男性社員は「武蔵小山に店を出したい人は多いが、『もう商店街は手が出ない』と周辺に流れている。商店街の通りは資本力のあるチェーン店ぐらいでないと入れなくなっている」と明かす。

実際、記者が4月に商店街の本通りを歩いてみると、約200店舗のうちチェーン店が半分ほどを占めていた。ちなみに1993年の商店街の組合員名簿を見ると、チェーン店はわずか6店しかなかった。「今後ますますチェーン店が増えるのでは」「庶民的だったムサコらしさが失われてしまう」。地元を取材すると、最近こうした不安の声が聞こえてくる。駅前に続き、商店街で新たな再開発が動き出したからだ。

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新たなタワーマンション計画、商店街の未来は

計画では、駅に近い商店街の一画を含む1.4ヘクタールが対象となり、39階建て、高さ約145メートルのタワーマンションなどが建設される。2025年11月に都が事業認可し、2029年度に着工、2033年度の完成を目指す。さらに別のタワーマンション構想も浮上している。再開発組合は「密集市街地の更新」や「既存商店街の魅力継承」などを目的に掲げる。アーケードを架け替え、タワーマンションの低層階には商業施設を入れる計画だが、駅前の商業モールの現状を見れば、どれほどの店が戻ってくるかは不透明だ。

すでに創業100年以上の老舗眼鏡店は2025年、再開発を前に店を閉じた。約70年続く洋傘店の村田さんも、営業を続けるかどうか悩んでいる。ブティックを経営する清水千穂さん(56)は、再開発すれば出て行く条件で家主から店を借りている。「これから再開発して賃料がさらに上がったら、チャレンジしたい若い人なんか店を出せない。私ももっと賃料が高かったら借りられなかった」と話す。パルム商店街では、2025年に事業認可されたエリアのさらに奥でも別の再開発が検討されている。こちらも商店街を巻き込んでタワーマンションを建てる構想が浮上している。二つの再開発エリアを合わせると、商店街全体の3分の1に及ぶ。実現すれば、駅前に立つ1棟を含め、商店街沿いに4棟のタワーマンションが並ぶことになる。

再開発への幻滅と残された希望

事業認可されたエリアの再開発組合の担当者は、「よりよい計画になるようプランを検討していく」と説明する。武蔵小山商店街振興組合は「アーケード周辺には老朽化した建築物や木造建物が密集し、立地上、車両や重機を入れることができず建て替えが困難なものも多い。防火防災対策は地域として取り組む必要がある」とし、再開発の必要性を訴える。清水さんも、かつての猥雑な駅前の状況に「確かに火事があったら大変そうで、再開発はしょうがないと思っていた」という。ところが、再開発でできた商業モールを見て幻滅した。「できたものがとにかく魅力がない。ニーズに合っていないし、回遊が悪い」。それだけに新たな再開発には不安を隠せない。「武蔵小山の商店街は一大ブランド。武蔵小山らしさを残しつつ再開発できるなら良いんですけどね。ここ(パルム商店街)もああ(駅前の商業モール)なっちゃうと、つまらない街になっちゃう」と語る。