希少疾患を抱える女性、重度訪問介護認定で生活が激変
神奈川県横須賀市に住む奈須香織さん(40)は、若年性ヒアリン線維腫症という非常にまれな遺伝性疾患を抱えている。この病気は、わずかな圧力でも体のあちこちが腫れてしまう特徴があり、全国でも10人に満たないとされる希少疾患だ。長年、体が思うように動かせない状態で生活してきた奈須さんだが、今年2月から重度訪問介護の認定を受けたことで、日常生活が大きく変化した。
昼食はカップラーメンだけの日々から解放
これまで奈須さんが利用できた障害福祉サービスは、朝晩の短時間に身支度を手伝ってもらう居宅介護のみだった。日中は自宅でウェブデザイナーとして在宅勤務を続けていたが、支援がない時間帯には深刻な困難に直面していた。
「机から物を落としても拾えず、トイレも我慢する日々でした」と奈須さんは振り返る。昼食は水筒に入れてもらったお湯で作るカップラーメンが唯一の選択肢で、栄養面でも限界があったという。
しかし、重度訪問介護の認定により、24時間体制でヘルパーが支援できるようになった今、冷蔵庫には作りおきの料理が常備され、温めればいつでも食べられる状態に。「何を食べたい?と聞かれて困ってしまうほどです。今までは選択肢がなかったから」と、食事の幅が広がった喜びを語る。
就労中のヘルパー利用が可能に
奈須さんの生活を変えたもう一つの要因が、横須賀市が導入した新制度だ。市は「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」を採用し、就労中も例外的にヘルパー支援を受けられるようにした。奈須さんはこの制度の市内初の利用者となった。
同居する高齢の両親の負担が増していたこともあり、奈須さんは昨年末、市に対して自立した生活を送りたいと訴えていた。その願いが実現し、「両親の負担も減り、自分でできることが増えました」と笑顔を見せる。
外出時の車いすの乗り換えや、身の回りのちょっとした作業もヘルパーに頼めるようになり、行動範囲が広がった。室内用車いすへの移乗も支援を受けながらスムーズに行えるようになった。
課題は残るが前向きな姿勢
一方で、課題も少なくない。奈須さんの自宅周辺では、彼女の需要に合ったヘルパー事業所が見つからず、現在は東京都内の事業所から派遣を受けている。夜間時の重度訪問介護の担い手不足など、制度を支える環境整備はまだ道半ばだ。
それでも奈須さんは「自由を得て、やりたいことがたくさんある」と前向きだ。若年性ヒアリン線維腫症の認知拡大を目指し、YouTubeチャンネル「奈須香織の重度障害なんでもチャンネル」を開設。動きにくい手で工夫してメイクする様子など、日常生活を積極的に発信している。
さらに、この病気の難病指定を目指すクラウドファンディングも実施中で、社会への理解促進に力を注いでいる。奈須さんは「病気をもっと知ってもらいたい」と語り、自身の経験を多くの人と共有したいと考えている。
重度訪問介護とは
重度訪問介護は、重度の肢体不自由や重い知的障害・精神障害を持つ人に対し、ホームヘルパーが訪問して入浴・排せつ・食事など生活全般の介護を行うサービスだ。財源は国と自治体が折半し、各自治体の支給決定により公的支援でヘルパーを付けられる。
従来、就労中は「個人が対価を得る経済活動を公費で負担するのに課題がある」として原則対象外だったが、合理的配慮の観点から制度の見直しが進んでいる。奈須さんのケースは、働く障害者の新たな支援モデルとして注目されている。



