同じ成分なのに価格差なぜ?処方箋不要で買える零売薬局の実態と規制強化の行方
同じ成分なのに価格差なぜ?零売薬局の実態と規制強化

花粉症の薬や保湿剤、湿布など、診察よりも薬を処方してもらう目的で医療機関を訪れる人は少なくない。市販薬は高価であり、病院で処方される薬の方が効果が高いと考えるからだ。もし病院の薬を手軽に購入できれば――そんな需要に応える薬局が存在する一方で、国は規制を強化している。その背景には何があるのだろうか。本記事では、薬の価格差や零売薬局の実態について詳しく探る。

同じ成分なのに価格が異なる理由

記者は病気治療のため毎日錠剤を服用している。その副作用で体がかゆくなるため、保湿剤「ヘパリン類似物質油性クリーム」(ニプロ社製)を処方してもらっている。今年1月、病院を受診後に近くの調剤薬局で処方箋を渡すと、他の薬は出てきたが保湿剤はなかった。主治医が処方箋に保湿剤の記載を忘れたのだ。窓口で「売ってもらえないか」とお願いしたが、「処方箋がないとだめ」と断られた。

そこで、昨年12月に取材で存在を知った、処方箋なしで病院の薬が購入できる薬局を訪れた。すると、全く同じ保湿剤が置いてあった。窓口で処方箋なしで購入できる薬の種類や保湿剤の説明を受けた上で、購入することができた。試しにドラッグストアに行ってみると、ニプロ社製と有効成分も配合割合も同じ「ヒルマイルド」という市販薬(OTC薬)があった。

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病院の処方では、診察にかかる費用や調剤費用などを除いた薬のみの値段は、保険適用なしで25グラム入り90円。処方箋なしで買った同じ製品は同800円。ドラッグストアでは100グラム入り2508円だった。なぜ効果とリスクが同じ薬が、調剤薬局では処方箋がないと買えないのか。その理由を調べてみた。

薬の区分と零売のグレーゾーン

薬は医薬品医療機器法(薬機法)に基づいて区分され、主に「医療用医薬品」と「市販薬(OTC薬)」に二分される。さらに、医療用医薬品は「処方箋医薬品」と「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に分けられる。例えば抗がん剤、睡眠薬、抗生物質などは「処方箋医薬品」で、処方箋なしに売ることは違法だ。「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品には痛み止め、鼻炎薬、胃腸薬、漢方薬などが含まれ、ニプロ社製のクリームもこれに該当する。

これらの「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品を処方箋なしに販売することを一般的に「零売(れいばい)」という。法律上、販売を直接禁止する規定はないものの、厚生労働省は「やむを得ない場合を除き処方箋に基づく交付が原則」とする通知を出している。つまり、原則禁止だが限定的な条件下でのみ零売を認めており、このグレーな扱いが、買える・買えないの違いの原因となっている。

零売を巡る訴訟と法改正

このグレーゾーンを巡って、昨年二つの動きがあった。東京都と福岡県の零売薬局経営者らは1月、「厚労省の通知は憲法が保障する職業選択の自由に対する過剰な制限だ」として、零売できることの確認を求める訴訟を東京地裁に起こした。一方、国は「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品についても「やむを得ない場合を除き処方箋が必要」とする薬機法改正案を国会に提出し、昨年5月に成立した。施行はまだで、「やむを得ない場合」を定める厚労省令も公表されていない。

訴訟は6月2日に結審予定。原告代理人弁護士の西浦善彦氏は「通知が違法・違憲となれば改正法の一部是正があるかもしれないし、省令で定めるやむを得ない場合の幅が広がるかもしれない」と話す。

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零売薬局の実態と役割

東京・上野駅から徒歩5分ほどのオフィス街に、「処方せんがなくても病院のお薬が買えます」と書かれた看板を掲げる薬局がある。2021年に開局した零売薬局「Grand薬局 上野店」だ。零売訴訟の原告で薬剤師の箱石智史代表は、6畳ほどの接客スペースでカウンターを挟んで客と向き合う。肌の赤みが気になるという女性客が来れば、症状だけでなく生活習慣も含めて話を聞き、原因を考える。化粧品やシャンプーが合わないのか、花粉が原因か――。カウンター脇のモニター画面に資料を映して説明することもある。

箱石氏は「医師は忙しく、患者がじっくり話を聞くことは難しい。私は薬のことに加え、日常生活でケアすべきことなどにも相談に乗っていて、1時間近く話をしたこともあります」と語る。大学卒業後、調剤薬局で働いた経験を持つ箱石氏は、医師の処方箋に従って薬を提供するだけの業務に疑問を感じ、退職。別の零売薬局で2年ほど働いた後、自身の薬局を開いた。

開局当初は1日の客が数人という日々が1年ほど続いたが、客とのコミュニケーションに力を注ぐと徐々に増加。利用者は30~60代の固定客が多く、70歳以上の高齢者は少ない。箱石氏は「すぐ近くに総合病院があるが、通院患者は調剤薬局に行くので、うちには来ない。じっくり相談に乗ってほしい人や、仕事などで忙しくて病院になかなか行けない人が、ネットや口コミで知って来てくれる。健康意識の高いお客さんも多い」と話す。利便性を考え、年末年始やゴールデンウイークも元日と日曜以外は営業している。

箱石氏は、零売薬局の本質は「販売」ではなく「相談」だと強調する。「患者の生活に寄り添い、症状によっては医療機関での受診を勧める。零売薬局は地域医療に貢献していると自負しています」

全国の零売薬局と価格比較

零売薬局は東京都に複数あるほか、三重県四日市市のウノモリ薬局、新潟市の薬局アットマーク、福岡市のまゆみ薬局などがある。処方箋対応と零売の両方を行う薬局は北海道、愛知県、大阪府などに存在する。

購入先が異なると患者負担はどう変わるのか。せき止めのメジコンについて、有効成分量が同じ医療用医薬品と市販薬(OTC薬)を比較してみた。医療用は公定薬価が20錠で172円。医療機関で処方してもらい3割負担の場合の薬剤費は51.6円で済む。零売薬局では公的医療保険が適用されないため公定薬価に縛られず、20錠入りを600円程度で販売。OTC薬は希望小売価格が20錠入り1390円だ。一般的に零売薬局は薬価以上、OTC薬以下で価格設定しているという。

処方薬が最も安いように見えるが、その場合、診察や調剤に伴う診療報酬が生じる。3割負担では零売やOTC薬より支払額は大きく、税金や保険料での公的負担も発生する。ただし、薬の購入量が増えれば処方薬の方が負担は少なくなる。