精神科病院に「ハチゴー」電車設置 7800万円の挑戦で社会の偏見を変える
精神科病院にハチゴー電車 7800万円で社会の偏見変える

精神科病院に現れた「ハチゴー」電車 7800万円の挑戦が始まる

精神科病院の中庭に、銀色のステンレス車体に赤帯が特徴的な東急電鉄8500系、通称「ハチゴー」が堂々と鎮座している。これは特定医療法人「研精会」が運営する「東京さつきホスピタル」(東京都調布市)が進める、精神科の社会的イメージを変革するための大胆な試みだ。

鉄道車両が病院にやってきた理由

2022年、研精会の石坂真一郎理事長(43)がインターネットでハチゴーの売却情報を発見したことがプロジェクトの始まりだった。中高一貫校の同級生で、ハチゴーで通学した経験を持つ諏訪智執行役員(43)に連絡を取り、二人は即座に購入を決断した。

「電車はワクワクする『コドモゴコロ』を呼び起こしてくれる」と諏訪さんは語る。日頃から精神科病院に対する社会の偏見や障壁を強く感じていた二人は、病院が笑い声の集う場所になることで、精神科への見方が変わるのではないかと考えた。

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7800万円の壁とクラウドファンディングの成功

しかし、プロジェクトはすぐに大きな壁に直面した。車両自体の価格は176万円だったが、全長約20メートル、高さ約4メートル、重量約34トンの巨大な車両を設置するためには、地盤沈下防止の土壌改良工事や運搬費などが必要で、総額7800万円の見積もりが提示された。

諏訪さんは一瞬ひるんだが、「社会の意識を変えたい」という情熱は消えなかった。「ハチゴープロジェクト」と銘打ってインターネットで資金調達を開始すると、異色の取り組みが大きな反響を呼び、5000万円の目標額を突破。2023年9月、多くの鉄道ファンが見守る中、ハチゴーは無事に病院に運び込まれた。

地域の人気者となったハチゴー

東急電鉄が引退車両を鉄道会社以外に売却するのは初めてのケースだった。整備士として入社当時からハチゴーと歩んできた東急OBの市川裕幸さん(63)も「地域に愛され続けてほしい」と温かく見守っている。

実際、ハチゴーは地域の人気者に成長した。地元の幼稚園の散歩コースに組み込まれ、電車好きの子どもと保護者の居場所づくり「電車っ子Party」を主催する下村玲さん(42)も昨年6月にハチゴーでイベントを開催。「懐かしい雰囲気の中で楽しめた。普段はぎこちないパパさんたちも電車の中ではうち解けられた」と手応えを語る。

個人の悲しみと未来への希望

子どもたちの笑顔を見るたび、諏訪さんは亡き次男・仙周ちゃん(享年2)の面影を重ねている。ハチゴーが運ばれる4カ月前、免疫制御の異常による血球貪食症候群で突然世を去った息子だ。「ハチゴーを見ると息子の面影を思い出す。ずっと見守ってくれているんだと思う」と、諏訪さんは前を向き続けている。

新たな挑戦と社会変革への展望

研精会はさらに新たな挑戦を計画している。来年には東京都で初めて、虐待などで心に傷を負った子どもたちを総合的に治療支援する専門施設「児童心理治療施設」を開設する予定だ。

石坂理事長は「傷ついた子どもたちもハチゴーがいることで癒やしにつながるかもしれない。地域全体を巻き込みながら社会を変革していきたい」と力強く語る。

研精会は1957年に前身の山田病院を開設。精神障害者が法的に福祉の支援対象でなかった1972年に、国内で初めて精神障害者向けの授産施設「創造印刷」(現・創造農園)を開いた実績を持つ。デンマークの介護を目指した老人ホームの運営や、中国・上海市での介護施設提供など、常に新しい挑戦を続けている。

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ハチゴーは単なる展示物ではない。精神科デイケアへの通り道として、入院患者が日常のリズムを取り戻す手助けをし、地域交流の核として機能している。7800万円という巨額の投資は、単なる設備投資ではなく、社会の意識を変えるための情熱の結晶なのだ。