女性の遺志継ぎ7年ぶり復活、四日市で文楽公演 個人招致の熱意再び
女性の遺志継ぎ7年ぶり復活、四日市で文楽公演

個人で文楽公演を招致、女性の遺志継ぎ7年ぶりに四日市で復活

伝統芸能を愛した一人の女性が、まちの人々を動かした。三重県四日市市で人形浄瑠璃文楽の公演が31日、7年ぶりに開かれる。イタリア料理店を経営する人見春代さんが生前、私財をなげうって定期的に開催していた。文楽が根付くまちへ、再び。地元の財団が遺志を引き継ぎ、公演を復活させた。

文楽への情熱が始まり

人見さんはもともと美術や文化に造詣が深く、文楽も市内の自身の店で小さな公演を開くなどしていた。ところが、本場で思わぬ事態が起きた。2012年度の予算で、当時の橋下徹・大阪市長が「経営努力をしていない」として、文楽への補助金を大幅に削減する方針を示した。人見さんは現地に足を運び、繊細で力強い上方の文楽を見て、四日市でも多くの人に親しんでほしいと感じた。個人で公演が招致できると知り、開催を即断した。

素人からの挑戦

主催団体は公共ホールを運営する地方自治体などが一般的。個人での実例はほとんどなかった。運営は全くの素人。自身の店の2階ギャラリーに勤めていた萩慶子さんと手作りのチラシを配布してチケットを売った。13年に初開催にこぎつけ、約600席を完売した時には抱き合って喜んだ。萩さんは「人見さんは言い出したら一直線の性格。そのエネルギーで出来上がった公演だった」と笑みをこぼす。

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私財を投じた公演運営

1回招致するには出演料などで経費が300万円以上かかった。支払いは人見さんがためていた葬儀代も充てた。地元企業から協賛を取り付け、学生を無料招待するなど当時として先進的な取り組みを進めた。チケットを完売しても収益はほとんどなかったが、人見さんは「これが私の生前葬」と盛況を喜んだ。舞台のあいさつでは「演劇は見る側の人材も育てなければ、完成した芸術にはなり得ません」と語ったという。

復活への道のり

四日市市での公演は19年まで隔年で開催した。21年は新型コロナ禍で実施を断念した。22年、人見さんは病気のため、74歳で亡くなった。以来、公演は途絶えていた。人見さんの熱意を伝え聞いた市文化まちづくり財団の油田晃アートディレクターが「四日市で伝統芸能をつないでいけたら」と公演をよみがえらせた。

公演の見どころ

演目は、生き別れとなった母と娘の悲劇を描く「傾城阿波の鳴門」。人間国宝の人形遣い・桐竹勘十郎さん(73)と、三重県名張市出身の若手、桐竹勘昇さん(36)が親子役を演じる。久しぶりに四日市の舞台に立つ勘十郎さんは「文楽を支えてくれた。より気持ちを込めてがんばろうと思う存在だった」と人見さんを慕う。

今後の展望

財団によると、工事のため、以前と違う会場を使い、客席数は半分ほど。チケットは3月22日に発売された。公演の再開を喜び、買い求める人も多く、あっという間に売り切れた。公演は今後も年1回、続けていく予定だ。

人形浄瑠璃文楽 浄瑠璃を語る「太夫」と「三味線」、「人形遣い」によって演じられる人形劇。江戸時代初期に大阪で生まれ、劇作家近松門左衛門による「曽根崎心中」などで人気を確立させた。2008年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。

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