国境なき医師団会長がガザの惨状を「ジェノサイド」と非難、イラン診療所も閉鎖
紛争地などで活動する国際NGO「国境なき医師団」のジャビド・アブデルモネイム会長が読売新聞のインタビューに応じ、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を「ジェノサイド(集団殺害)」と強く非難しました。また、イスラエルによる活動許可取り消しの影響で外国人スタッフを撤収させたことや、イラン・テヘランの診療所が閉鎖されたことを明らかにしました。
ガザでの停戦は「名ばかり」、医療危機が深刻化
アブデルモネイム氏は、昨年10月に発効したイスラエルとハマス間の停戦合意について、「停戦とは名ばかりに過ぎない」と指摘。ガザの仮設診療所では、今年に入ってからも空爆によるやけどや銃創などの外傷を負った患者が運び込まれていると述べました。
さらに、医療用品の供給網がイスラエルによって完全に遮断されているため、応急処置で使う包帯の交換頻度を少なくするなどの対応を取らざるを得ない状況を説明。「これから気温が上がり、きれいな包帯や水もない中で活動するとなれば、細菌感染などの恐れは高まる」と警告しました。
イスラエルによる活動許可取り消しで外国人スタッフ撤収
イスラエル政府は今年1月、医師団など37の国際NGOについて、「安全確保や透明性の要件を満たさなかった」としてガザなどでの活動許可を取り消しました。アブデルモネイム氏は、「昨年末、イスラエル当局から一方的に活動許可の取り消しを通告された。それまでも、またその後もイスラエルに繰り返し交渉を呼びかけてきたが、我々の申し出は全て断られた」と述べ、今月1日までにパレスチナ人を除く約40人の外国人スタッフ全員がガザからの撤収を余儀なくされたことを明らかにしました。
この影響で、医師団が運営するパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の移動診療所は、閉鎖や診療中断を強いられました。アブデルモネイム氏は、「医師団の外国人スタッフは、現地で目撃したことを自国で発信する貴重な『証言者』としても信頼を得ている。スタッフを減らすことは、証言者が減るということでもある」と強調しました。
「ガザで起きていることはジェノサイド」と強く非難
パレスチナ保健当局によると、停戦後の死者数は600人を超えています。アブデルモネイム氏は、医師団が政治的に中立であることを基本としながらも、「活動地域で国際人道法の重大な違反行為や民間人への甚大な被害を目撃したなら、我々は公然と批判せずにはいられない」と述べ、「ガザで起きていることは、まさにジェノサイドだ」と断言しました。
イラン・テヘランの診療所も閉鎖、家族の安全を懸念
医師団は、2月末から米国とイスラエルの軍事作戦が続くイランでも活動していますが、軍事作戦の影響で診療所3か所が一時閉鎖に追い込まれました。このうち2か所は再開したものの、首都テヘランの診療所は依然として閉鎖が続いています。診療所は薬物使用者や性労働従事者のケアが主で、現時点で空爆による負傷者は運び込まれていないと説明しました。
アブデルモネイム氏は、母がイラン出身で現地に親戚が多数いることから、「個人的には、かつてのイラクやシリアのような破綻国家になってしまうことを最も恐れている。いま最も気がかりなのは家族の安全だ」と述べ、不安定な情勢への懸念を表明しました。
日本政府の資金援助に感謝、平和憲法の意義を強調
医師団は活動資金の大半を民間の寄付でまかなっていますが、日本、スイス、カナダの3か国からは政府資金の提供を受けています。アブデルモネイム氏は、日本政府が支援を続ける理由について、「日本が『平和憲法』を堅持し、戦争を擁護する国でないことが大きい。日本政府がグローバルヘルス(国際保健)の意義を認め、資金援助を続けてくれていることに感謝を伝えたい」と述べました。
インタビューは今月18日、アブデルモネイム氏の来日に合わせて東京都内の医師団日本事務局で行われました。アブデルモネイム氏は英国出身の救急医で、父はスーダン人、母はイラン人。2009年から医師団の活動に加わり、ガザ、ウクライナ、シリアなど数々の紛争地帯で医療支援に従事してきました。昨年9月から現職で、46歳です。



