千葉県南房総市で、元ブラジル移民の男性が国産コーヒー豆の栽培に情熱を注いでいる。川崎市在住の前田茂生さん(67)は、両親の遺志を継ぎ、日本でのコーヒー農園経営を実現しようと奮闘中だ。
南房総でハウス栽培を開始
前田さんは2022年夏、南房総市でコーヒーの木のハウス栽培を始めた。道の駅白浜野島崎前のビニールハウス内で、現在約600本のコーヒーの木が育っている。当初は露地栽培を試みたが、越冬が難しくハウス栽培に切り替えた。種をポットに植え、苗木を約1年育てた後、ハウス内の地面に定植。枝先になる実から種を採取し、コーヒー豆を製造する。
ブラジルでの経験と両親の夢
前田さんは福井県出身。7歳の時、両親や姉、親族約40人と共にブラジルに移住した。幼少期は現地にすぐに溶け込み、多くの友人に恵まれたが、両親や姉は言葉や習慣の違いに苦しんだ。家族は数年で帰国したが、前田さんはブラジルに生活拠点を置き、36歳でラーメン店「ポルケ・シン」を開業。カツ丼や天丼のセットメニューが人気を博し、事業を拡大した。
実業家として成功を収めたが、2016年に両親の介護のために帰国。日本で新たなビジネスを立ち上げ、両親を看取った。帰国を決意した時点で、「本場仕込みの新鮮な国産コーヒー豆を安定供給する」という構想を抱いていた。コーヒー農園経営は、家族がブラジルに渡った原点だからだ。
適地探しから南房総へ
前田さんは栽培適地を求めて、静岡県伊豆地方や沖縄県など日本各地を調査。2021年に南房総市での栽培を決断した。同年、露地で越冬を試みたが失敗し、翌年からハウス栽培に切り替えた。現在、ハウス内では約600本のコーヒーの木が順調に生育している。
初収穫と今後の展望
当初は2028年に初収穫を見込んでいたが、予想より早まり、昨年11月に開花。今年2月には約200グラムの種を収穫した。前田さんは「秋には商品として扱える予定。南房総市のふるさと納税の返礼品に使われることが決まっており、カフェで味わってもらう準備も進めている」と語る。コーヒーの木の青々とした葉と赤い光沢の実を撫でながら、笑顔を見せた。
国産コーヒー豆の生産量はごくわずかで、前田さんの挑戦は注目を集めている。両親の夢を継ぎ、半世紀を経て故国日本で実を結びつつある。



