内戦下のミャンマーへの汚染輸出 終わりの見えない環境負荷も「結局はカネで解決」
中国南部の国境検問所「滇灘(てんたん)口岸」は、雲南省保山市とミャンマー北部カチン州をつなぐ重要な拠点である。大小のトラックが列をなす検問所の奥には、独特の丸いビルマ文字で「ようこそ」と書かれている。この検問所は、中国のレアアース戦略とミャンマーの内戦が交錯する象徴的な場所となっている。
中国の習近平(しゅうきんぺい)政権は昨年、レアアース(希土類)の輸出規制を外交カードとして活用し、関税を武器とするトランプ米大統領から税率引き下げの譲歩を引き出した。世界シェアで「埋蔵量5割、採掘6割、精錬9割」(国際エネルギー機関)を誇る中国は、レアアースを巡る覇権を握る一方で、その代償として環境破壊を国外に輸出している実態が明らかになった。
国境を越えるレアアース採掘の実態
巨大なトラックには袋詰めの硫酸アンモニウムが山積みされ、カチン州でレアアース採掘に使われる。複数の小型トラックには肉や野菜、食用油が積まれ、運転手はミャンマー側から電話を受け、中国人作業員が働く採掘場に届ける。地元住民は比較的自由に国境を往来できるという。
検問所から約10キロの中国側の小さな街では、看板に「レアアース」を掲げる商店が並ぶ。採掘に必要なパイプや薬品、重機、布袋、生活用品などを扱う。ここで働く女性の一人は、千キロ以上離れた江西省贛州市の出身で、「同じ地域からきた人は多い」と話す。同市ではかつて民間の採掘業者が乱立したが、規制強化で採掘が禁じられ、多くの業者がミャンマーに移った。
内戦下の規制緩和が引き寄せる業者
内戦下のミャンマーは規制が緩く、中国から多くの採掘業者を引き寄せた。タイのシンクタンク「ミャンマー戦略政策研究所」の2025年7月の報告書によれば、検問所に近いカチン州チプウィとモマウクで371カ所の採掘場が確認された。このうち245カ所が、2021年の国軍の軍事クーデター以降に開発されたものである。
検問所では時折、ミャンマー側からレアアースを積んだとみられるトラックが入ってくる。中国への輸出額は2021年以降の4年間で36億ドル(約5700億円)に達し、その前の4年間の5倍に急増した。戦闘を続けるミャンマーの各勢力にとっても重要な収入源となっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、ミャンマー産は一部の重希土に限れば世界シェアの4割に達する。
環境汚染の深刻化と健康被害
ミャンマーでの環境汚染は深刻だ。採掘は山の斜面に多数の穴を開け、硫酸アンモニウムなどを大量に流し込み、レアアースを含む液体を回収する「原位置浸出法」が主流で、環境への負荷が大きい。同研究所によれば、地元住民には皮膚病や肺疾患が広がっている。被害はメコン川下流のタイにも及び、実質的に採掘を担う中国とタイの間の火種となった。
ミャンマー産の大部分は中国で精錬され、サプライチェーン(供給網)に取り込まれる。中国にとっては輸入量の3分の2がミャンマー産だ。検問所から車で約2時間半の保山市内には2022年、贛州市の国有企業「中国稀土集団」傘下の精錬工場が建設された。
カネで解決される環境問題
カチン州は2023年末から少数民族武装勢力「カチン独立軍(KIA)」が支配する。中国側関係者は「開発権が値上がりし、税金も高い。利益は減ったが、多額の投資をした中国人らは引くに引けない」と語る。
欧米メディアは「欧米がかつて中国にしたように、中国は環境破壊をミャンマーに輸出している」と報じる。先の関係者はミャンマーでの環境破壊の存在を認めた上で「ミャンマー側でも規制は強まっているが、結局はカネで解決できる。どこも同じだ」と話す。
この連載は中国総局・中沢穣が担当しました。



