かつての「ドル箱」が200万台の壁を突破、清涼飲料自販機の苦境
日本で独自に発展してきた文化の一つともされる清涼飲料の自動販売機が、設置台数で200万台を下回る事態に陥っている。かつてはいつでも手軽に購入できる利便性から販売が伸び、業界にとって「ドル箱」と称された存在だった。しかし現在では、補充要員の確保や物流費用の負担が重くのしかかり、販売経路としての輝きは失われつつある。飲料メーカー各社は、キャッシュレス決済などの新たな手法を導入し、復活への道筋を模索している状況だ。
価格競争の激化と消費者行動の変化
「自販機は高いのであまり利用しない」と語るのは、東京都に住む30代の女性会社員である。彼女は飲料を購入する際、価格が割安なドラッグストアやスーパーを選ぶことが多い。物価高騰への対策として、水筒を持ち歩く習慣も身につけたという。「やむを得ず自販機で買う時は、その価格の高さに悔しさを感じる」と心情を明かす。
具体的な価格差を見てみると、伊藤園の緑茶飲料「お~いお茶」は茶葉の高騰を背景に値上げが続いている。東京都世田谷区の私鉄駅にある自販機では、460ミリリットル入りが160円で販売されていた。一方、同じ区内のドラッグストアでは、600ミリリットル入りが116円で提供されており、容量当たりの単価で比較すると明らかな差が生じている。
ドラッグストア側は、飲料や食品を割安に設定して客足を誘引し、利益率の高い化粧品などの購入につなげる戦略を採用するケースが少なくない。このような価格競争が、自販機の利用をさらに遠ざける要因となっている。
歴史的経緯と市場シェアの推移
清涼飲料の自販機は、1960年代頃から日本の高度経済成長と歩調を合わせて普及が進んだ。定価に近い値段で24時間休みなく販売できる点が強みであり、各飲料メーカーによる設置競争が活発化した。飲料総研(東京)のデータによれば、ピーク時となる2014年には247万台に達していた。
長きにわたり、自販機は販売経路として最も重要な位置を占めていた。当初はワンコインの100円で缶飲料が購入できたが、消費税の導入を背景に1990年代から110円、120円へと値上がりし、ペットボトル製品も登場した。2010年にはスーパーに販売シェアで抜かれ、2024年にはコンビニエンスストアにも追い付かれる結果となった。
販売で競合するスーパーの周辺に設置された自販機は、採算が取りにくくなりやすく、メーカーによる撤去が進んでいる。飲料総研の担当者は「物価高がさらに進み、自販機の多くの商品が200円に達した場合、消費者離れは加速するだろう」と予測する。
新たな戦略と社会的役割への期待
メーカーが力を注いでいるのは、多くの人が利用するオフィスビルや駅周辺などの設置場所である。業界最大手のコカ・コーラボトラーズジャパンは、データ分析や人工知能(AI)を活用し、設置場所の見極めや販売商品の選定を最適化することで、採算性の向上を図っている。
キャッシュレス決済の導入も重要な鍵だ。サントリービバレッジ&フードは、独自の決済アプリ「ジハンピ」を展開している。スマートフォンで簡単に購入できる利便性を売りにしており、2025年末時点で18万台の自販機に導入された。対応機種の売り上げは平均で3%上昇したという。
自販機は、壊して盗難する被害が少ない日本の社会環境で普及し、安全の象徴として外国人観光客からも人気を集めている。「自販機の明かりが防犯に役立っている」との声も寄せられており、「地域の特性上、撤去が難しい事例もある」と飲料メーカー関係者は説明する。
物流コストの重荷、激しい価格競争、そして新技術を駆使した復活策。清涼飲料自販機の今後には、業界全体の行方がかかっている。



