連載「減反は何をもたらしたのか」の第5回。今回は、新たな農法の可能性と、農地をめぐる現状を深掘りする。約2年前、中国地方に住む30代の農家の男性は、農地の所有者から突然、不動産会社を通じて農地の売却を打診され、驚いた。男性は親から相続した水田に加え、離農した農家の水田を借りて一体化し、自費であぜの撤去などの工事を実施。約60ヘクタールの農地の中で、最も広いまとまった水田を形成していた。賃借契約は10年近く残っている土地もあるにもかかわらず、不動産会社との交渉では断り切れず、最終的に売却を承諾した。この土地所有者から他の農地も借りているため、断ればすべての農地を返却しなければならない恐れがあったからだ。
農地転用の規制緩和と現状
この水田の売却話が持ち上がった背景には、隣接する幹線道路の工事開始がある。水田をつぶして倉庫に転用する計画だ。2017年に施行された地域未来投資促進法により、農地の転用が容易になった。不便な場所にある耕作放棄地は他の用途に乏しいが、交通の便が良く平坦な土地は工場や物流に適しており、農地としても好条件である。政府が食料安全保障を掲げる一方で、農地転用の規制は繰り返し緩和されてきた。
農林水産省幹部の見解
農林水産省の幹部によると、このような状況は食料安全保障の観点から問題があると認識されている。しかし、規制緩和の流れは止まらず、優良農地が減少するリスクが指摘されている。
新農法「節水型乾田直播」の可能性
こうした中、注目されるのが「節水型乾田直播(かんでんちょくは)」と呼ばれる新農法だ。この農法では、田んぼに水を張る必要がなく、水の管理期間を大幅に短縮できる。ヤマザキライスが提供するこの技術は、水田の集約や大規模化にも適しており、農地の有効活用につながる可能性がある。従来の水田農業では、水管理に多くの労力と時間が必要だったが、乾田直播では播種後の灌漑が最小限で済むため、作業効率が向上する。
農地集約の課題
しかし、農地の集約には所有者の同意や法的な手続きが必要であり、簡単には進まない。特に、高齢化や後継者不足が深刻な地域では、農地の流動化が停滞している。また、転用規制の緩和により、優良農地が宅地や工業用地に転用されるケースが増えており、農業生産基盤の維持が危ぶまれている。
将来の農業政策への提言
専門家は、食料安全保障の観点から、優良農地の保護と新農法の普及を組み合わせた政策が必要だと指摘する。具体的には、農地転用の厳格化や、乾田直播などの技術導入に対する補助金の拡充が求められる。また、農地の賃借契約の長期化や、所有者と耕作者の間のトラブルを防ぐ仕組みも重要だ。
この連載では、コメ改革の行方と、農業が直面する課題を引き続き追跡する。



