百貨店各社が富裕層向けのサービス「外商」に注力している。これまで顧客の中心だった中間層が百貨店から離れる中、近年の百貨店の売り上げは富裕層とインバウンド(訪日客)に支えられてきた。各社が特に意識するのは、株高による金融資産の増加などを背景に増えつつある若年富裕層の取り込みだ。
外商の起源と変遷
外商は江戸時代に呉服店が大名などの屋敷を訪れて商いをしたのが起源とされる。専属の担当者が付き、自宅などを訪れて商品の提案や買い物のサポートをする。昨年11月、松坂屋名古屋店(名古屋・栄)の外商員に同行した顧客宅への訪問は、イメージする外商そのものだった。
「訪問型」から「店内型」へ
立派な邸宅内の応接間。外商と代々、付き合いがあるという自営業の70代女性は歴代の担当者との交流を振り返り、若い外商員に食事を振る舞ったことを懐かしんだ。家族のように親交を深め、女性の40代長男も幼いころから外商に親しんできた。女性が総額約600万円のダイヤモンドの指輪をためらいなく試着する姿を見て、外商顧客がどれほど店の売り上げに貢献しているかを実感した。
ただ、疑問もわき上がった。特に若い世代にとって、自宅に外商員を招き入れて深く付き合うスタイルは受け入れられるのだろうか。
「日本一の外商」を掲げる松坂屋名古屋店では売り上げの約半分を外商が占める。他の世代と比べても若年層の売り上げは伸びており、その消費行動を踏まえて営業方法に変化が生じつつあるという。
店が意識するのは、「店外」中心だった外商顧客の「店内」への誘導。顧客が店舗に来た際に外商担当が付き、専用のサロンを利用してもらいながら買い物をサポートする。
外商戦略を担当する網本大地さん(46)は「昔は一日中、外回りをするようなやり方だったが、緩やかに変わっている」と説明する。顧客がマンションに住んでいたり、私的空間に他人が立ち入ることを好まなかったりするため、「訪問型は、特に都会では時代に合わなくなっていると感じる」と明かす。
店に若年層を呼び込むため、2024~25年に本館で過去最大級の改装をした。どの百貨店でも似た商品が並ぶ「同質化」から脱却するため、婦人服売り場を削減し、東海地方初出店を含む国内外のブランドが並ぶ、高級感のある売り場に転換した。
大丸松坂屋百貨店を運営するJ・フロントリテイリング(東京)は6月に栄の複合高層ビル「ザ・ランドマーク名古屋栄」で高級ブランドの旗艦店などが入る商業施設「HAERA(ハエラ)」を開業するなど、地域一帯で客を呼び込む戦略を強める。網本さんは「エリアの魅力と店の魅力を高め、誘引力と吸引力を上げていきたい」と話す。
デジタルと対話の融和
若年層を取り込むため、デジタルにも注力する。顧客とのやりとりにはメッセージアプリを使い、外商顧客専用サイトで顧客との接点を増やす。購買データを人工知能(AI)が分析し、より効率的に商品販売につなげるシステムも取り入れている。
インターネットに商品の情報があふれているだけに、外商員は、顧客が知らない商品の背景を紹介したり、顧客の好みだけでなく、交友関係や出かける場所も想定した上で商品の提案をしたりすることで存在感を示す必要がある。網本さんは「デジタルだけでは物は売れない。人のつながりも重要視している」と話す。
近鉄沿線を中心に店舗を展開する近鉄百貨店(大阪市)も28年度には外商の売上高を24年度比で約2割増やし、若年層では2倍に拡大する目標を掲げる。23年からは、ネットで外商申し込みができるように門戸を広げ、申し込みページでは入会審査基準の目安として30歳以上、年収1千万円以上と記載。交流サイト(SNS)などネット広告でも若年層に入会を呼びかける。
店内での接客も強化し、24年には外商部門に高級ブランドの買い物をサポートする「ラグジュアリー・アテンド課」を設置した。吉川和男・常務執行役員外商統括本部長は「働き方の多様化に対応し、1対1でお客さまを担当するだけではなく、チームでの対応も増やしていきたい」と話す。新たな取り組みは進めているが、近鉄百貨店も重視するのは対話。吉川さんは「対話しながら、表情や言葉から本人も気付いていない潜在的な欲求を探し出して提案する。これが外商の強み」と強調した。
百貨店に詳しい中部大の末田智樹教授(地域経済史)は「外商は江戸時代から続くノウハウがある。ショッピングセンターが百貨店に勝てないのは外商の接客」と説明する。
百貨店は全国で次々と姿を消し、名古屋市内でも今年2月に名鉄百貨店と近鉄百貨店名古屋店(近鉄パッセ)が営業を終了した。生き残りへのカギとされる富裕層の需要にどう応え、若年層にも選ばれる店になっていくか。デジタルの活用や店舗づくりに加え、「外商ならでは」の営業力の真価が問われている。



