駅前老朽化マンションに迫る再開発の波 住民の耐震診断願いは無視される
東京都品川区大崎駅前のマンション「ニュー大崎」で、住民の意向をよそに再開発計画が着実に進行している。1978年に完成したこのマンションは、耐震基準が強化された1981年以前に建設された旧耐震基準の建物だ。住民たちは耐震診断の実施を強く求めているが、管理組合はその声に耳を貸さず、再開発に向けた動きを加速させている。
「寝耳に水」の再開発話と住民の戸惑い
ニュー大崎に住む沢田明美さん(仮名・64歳)が初めて再開発の話を聞いたのは2013年。マンション管理組合の会合で、不動産関係者とおぼしき男性が「耐震基準が古いため再開発による建て替えが必要」と説明したという。「当時、建て替えなんて話題にもなっていなかったので、寝耳に水でしたよ」と沢田さんは振り返る。
確かにニュー大崎は旧耐震基準のマンションだが、沢田さんは強い違和感を覚えた。「東日本大震災でも壁にヒビ一つ入らなかったのに、いきなり危ないと言われても…」。参加していた母親が「耐震工事という手もあるのでは」と訴えたが、説明者は「そういう手もありますね」と素っ気なく答えるだけだった。
具体化する再開発計画と住民の孤立
2014年8月には西口駅前再開発準備組合が発足。2017年には、1.3ヘクタールのエリアにオフィス棟と住居棟を建設する構想が示された。住民たちは建て替え後、住居棟に入居できるとされたが、沢田さんは「再開発に賛成してもいないのに話が具体化した」と驚きを隠さない。
住民たちは管理組合に対し、耐震診断実施を前提とした検討を要望し続けた。しかし理事からは「これから再開発するのに地震対策なんて必要ない」と一蹴されたという。ニュー大崎には修繕費積立金が1億円以上もあり、「積立金を使えばすぐに耐震診断できる。何のために積み立てているのか」と沢田さんは憤る。
不動産業者が明かす「駅前老朽化マンション」狙いの本音
大手デベロッパー関連会社で営業を担当する高橋健太さん(仮名)は、駅前の老朽化マンションが再開発用地として注目される背景を明かす。「東京では開発に必要なまとまった土地が不足している。工費高騰でコストが膨らむ中、採算性が見込める好立地は奪い合いの状態です」。
高橋さんは「駅前の老朽化マンションはすごい狙い目」と認め、「駅前は一気に化ける。全部立ち退いてもらってきれいにすると価値が飛躍的に上がる。再開発だと補助金も出るので、デベロッパーとしてはもうかるんですよ」と開発側の本音を語る。
増加する老朽化マンションと進まない耐震化
国土交通省によると、全国の築40年以上のマンションは2024年末で148万戸に達し、10年前の3倍に増加。2034年末には293.2万戸にまで増える見込みだ。建て替え費用の問題や住民合意の難しさから、老朽化マンションの解消は進んでいない。
自己負担なく再開発で建て替えられれば住民にとってメリットが大きく、街の耐震化を進めたい行政とも利害は一致する。しかし沢田さんのように「耐震診断をした上で危険と判断されれば再開発もやむを得ない」と考えている住民も少なくない。
東京新聞がニュー大崎管理組合の理事長と副理事長に耐震診断を実施しない理由を尋ねたが、回答は得られなかった。住民の多くを蚊帳の外にしたまま、老朽化マンションを再開発に引き込む手法が専門家によって指摘されている。
大崎駅周辺では超高層ビルが林立する中、西口駅前エリアだけが未開発の状態。不動産需要が高まる東京で、住民の安全への願いと開発業者の思惑が交錯する現場の実態が浮き彫りになっている。



