静岡市は企業誘致に力を入れているが、大型賃貸オフィス物件が不足している。特にJR静岡駅周辺では需要が高いにもかかわらず、ビルの新築や建て替えが進まず、空室率は2.6%とデータのある18政令市で最も低い。市は若者の定住人口増加を目指し、デジタル関連企業の誘致を図るが、築年数や面積などの条件を満たす物件は少ない。駅前には再開発ビルの建設計画があるが、建設費の高騰により完成時期は不透明だ。
市長がオフィス不足を訴え
難波喬司市長は今年初めの静岡商工会議所の賀詞交歓会で、市内の政財界関係者約700人を前に「静岡市に進出したい企業は多くあるが、オフィスが足りず困っている。ぜひオフィスの供給をお願いしたい」と訴えた。
現状の空室率と供給不足
静岡市内の大型賃貸オフィスビル(フロア当たり100坪以上)にはほとんど空きがない。仲介大手「三幸エステート」の調査によると、3月末時点の空室率は2.6%で、18政令市の中で最低だった。2017年の日本生命静岡ビル以降、新規供給はなく、今後3年間の供給予定も確認できない。同社の担当者は「新たなビル開発計画があっても、オフィスではなくホテルやマンションが選ばれがちだ」と分析する。
市の支援策と企業の反応
市は25年度、市内進出を検討するデジタル関連企業6社に延べ35件の物件を紹介した。うち3社は年度内に進出したが、物件探しは難航した。市は新たに進出した企業に対し、オフィス賃借料や市民雇用、オフィス改修の費用を補助する制度を設け、条件面でためらう企業を後押ししたい考えだ。
再開発計画と建設費高騰
静岡駅北口では、タワーマンションや商業施設が入る地上27階、地下1階建ての高層ビル(高さ110メートル)の建設計画があり、市も補助金を出す。地権者らでつくる再開発準備組合は2032年11月の開業を目指す。難波市長の意向も踏まえ、ビルの一部フロアはオフィス利用も想定する。しかし、建設費は当初見込みの約270億円から大幅に膨らむ見込みで、組合の担当者は「事業の成立性を考慮しながら検討を進めたい」と話すが、完成時期やオフィス面積は見通せない。
南口への期待
地元経済界からは「駅の南口にも目を向けるべきだ」との指摘がある。百貨店や商業施設が集中する北口に対し、南口は低層の古い建物や平面駐車場が目立つ。静岡商工会議所の岸田裕之会頭は、北口周辺を「非常に混雑している」としつつ、南口は「駅から徒歩圏内にまだ相当土地がある」とオフィスビル建設の余地を指摘する。民間事業者には建設費や入居率の不安があり、「行政は事業者の立場に立った支援策を講じてほしい」と求めた。
専門家の見解
不動産鑑定士の芝口直樹さんは「JR静岡駅周辺では、建て替えや再開発計画が他の政令市に比べて少なく、街の新陳代謝は良くない。容積率が高く高層ビルが建てられる商業地域でありながら、低層の商店が多い。駅北口の商店街も老朽化しているが、隣同士の軒が連なる建物構造で、1店舗が反対すれば計画は行き詰まる。オーナー側が入居者との立ち退きトラブルを避けたいという県民性も影響しているかもしれない。一定規模の再開発は建設費高騰で今後ますます難しくなるだろう」と話す。
都内から移転した企業の事例
デジタルコンテンツを活用した広告やゲーム制作会社「A440」は4月下旬、静岡市の協力で東京都港区西麻布からJR静岡駅北口の中心市街地へ本社を移転した。金丸義勝代表取締役CEOは「首都圏とのアクセスの良さやリモートワークの普及で、必ずしも本社が東京である必要はなくなった」と語る。駅周辺の物件探しには苦労し、企業や学生との交流拠点として活用するため、1階で100坪程度の広さを希望したが、約5カ月かけて見つからず、最終的に駅から徒歩圏の七間町で面積が半分の物件を契約。市内に2拠点を構えて対応した。同社は伝統工芸品を高精度にスキャンし仮想空間で公開する技術を持ち、静岡市がプラモデル製造業で盛んなことから「自社技術とコラボした事業も進めたい」としている。



