アリの集団内エサ分配を世界初の手法で可視化、農業や環境保全への応用に期待
量子科学技術研究開発機構の高崎量子技術基盤研究所(群馬県高崎市)を中心とする研究チームは、アリが仲間と栄養を分け合う「助け合い」のプロセスを追跡・可視化することに成功したと発表しました。この研究では、放射性ナトリウムを活用した革新的な技術を用いることで、従来の方法では難しかった定量的な把握も可能となりました。この手法は、将来的に農業や環境保全の分野で応用できる可能性が示唆されており、生態系の理解や外来生物の駆除に役立つと期待されています。
社会性昆虫アリの分業と秩序ある行動に着目
アリは、子を産む女王アリと、エサ集めや子育てなどの役割を担う働きアリに分かれる「社会性昆虫」として知られています。特別な司令塔がいなくても分業が成立し、集団として秩序ある行動を取ることが特徴です。今回の研究では、アリが集めたエサがグループ内でどのように分配されるかに焦点を当て、そのメカニズムを解明することを目指しました。
分析には、放射性同位元素(RI)を用いた「RIイメージング」という手法が採用されました。この技術は、人のがん診断や植物内の栄養の動きの把握にも使われており、エサの動きを継続して追跡できる特長があります。従来の方法では、エサを与えたアリを集団に戻しても観察に限界があり、エサに色素を混ぜた場合も、確認には腹部をつぶす必要がありました。
放射性ナトリウムでエサの流れを詳細に追跡
研究チームは、微量の放射性ナトリウムを混ぜたエサをアリに与えることで、放出された放射線を体外から検出し、どのアリがどれぐらいのエサをどの相手に渡したかを特定することに成功しました。この手法により、100匹規模のアリ集団3グループで、エサの分配の様子を世界で初めて追跡することができました。
追跡画像の解析からは、群れにエサが広がる時間や程度も明らかになりました。2つのグループでは約20分でエサが行き渡ったのに対し、残る1つのグループでは行き渡らなかったことが判明。この違いは、グループ間でのエサ集めや世話役といったアリの割合の違いが影響したとみられています。
農業や環境保全への応用可能性と今後の展望
今後は、エサの種類を変えた実験も検討されており、研究の幅が広がることが期待されます。群馬県庁で記者会見した河地有木プロジェクトリーダー(放射線計測)は、外来生物のヒアリを例に挙げて「虫をいかに根本的に退治するかという研究につながる」と述べ、生態保全や農業分野での活用の可能性を示唆しました。
エサの流れが分かることで、効果的な駆除方法の開発が期待されます。また、複数の巣を使って一部ルートを遮断する実験などを通じて、人の社会では実験が難しい物流面の解析にも生かせるとの考えも示されました。この研究は、2023年から2025年度にかけて行われ、その成果は2026年3月26日に科学誌サイエンティフィック・リポーツ(電子版)に掲載されました。



