櫻井武『意識の正体』が脳科学の視点から自由意志の幻想に挑む
猛獣が迫った時、人間は「危ない!」と意識して逃げる。しかし、同じ行動を取る人間型ロボットは、恐怖を感じたり死を恐れたりしない。この違いは何か?神経科学者櫻井武氏の新著『意識の正体』(幻冬舎新書)は、この問いを出発点に、意識の本質を探求する。
意識は後付けの物語に過ぎない
著者は、私たちが自由な存在として意識的に行動を律していると思い込んでいるが、実際には多くの行動が無意識の選択によって決定されていると指摘する。例えば、意識する数百ミリ秒前に人は動作の準備を始めており、意識はそれを後から解釈し、「私は怖かったから逃げた」と物語化しているにすぎない。この現実は、私たちの自己認識に根本的な疑問を投げかける。
睡眠研究とオレキシン発見の知見
櫻井氏は、覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を柳沢正史氏と共に発見したことで知られる神経科学者だ。同氏の睡眠研究は、意識を失ったように眠っている間の「自分」が、寝る前と後の「わたし」とどう異なるかを考察し、私たちが自明視する世界観を揺さぶる。この科学的アプローチは、意識の謎を解く鍵を提供している。
人間の理性の狭量さと危うさ
さらに、著者はヒトよりも高次の知性が人間の意識する宇宙像を見た場合、それが非常に小さく見えるだろうと考察する。この視点は、自らを正しいと思い込みがちな理性や自由意思の危うさ、狭量さを浮き彫りにする。櫻井氏は、権力者にこそ読んでほしい一冊と述べ、科学的洞察が社会に与える影響を強調する。
本書は、意識の正体を脳科学の最新知見から解き明かし、人間の存在意義に深く迫る内容だ。価格は1078円で、読書委員の鵜飼哲夫氏も高く評価している。



