南極の小さな生物が地球環境を支える オキアミの巨大な役割
南極海・トッテン氷河沖で、南極観測船「しらせ」による調査が進められている。気候変動に伴う氷床崩壊や海氷融解が懸念される南極だが、実は温室効果ガスを吸収する重要な役割も持っていることが分かってきた。その主役は、体長最大でも6センチほどの小さな生物、ナンキョクオキアミだ。
クジラの巨体を支えるオキアミの生態
「本艦の左舷、30度にクジラ」――トッテン氷河沖で観測を続けるしらせの周辺では、時折クジラの潮吹きが突然水面から立ち上がる。船のすぐ隣で黒く光る背中を見せることもあるヒゲクジラの仲間たち。これらの巨体を支えているのが、この海域に大量に生息するナンキョクオキアミである。
国立極地研究所によると、ナンキョクオキアミの特筆すべき点はその膨大な量にある。世界全体で3億から5億トンとも推定され、野生種の中ではおそらく最大のバイオマスを誇っている。クジラだけでなく、魚類やペンギン、アザラシなど南極のあらゆる動物の主要な餌となっており、南極生態系の生活基盤そのものと言える存在だ。
気候変動緩和への貢献 炭素吸収のメカニズム
生物としてこれほど大量に存在するため、オキアミは生態系の土台としてだけでなく、気候変動研究においても炭素の吸収や蓄積の観点から重要な研究対象となっている。生きている時も、死んだ後も、他の生物に食べられた後も――オキアミは様々な形で炭素循環に関与している。
具体的には、オキアミが植物プランクトンを摂取し、その炭素を体内に取り込む。その後、オキアミ自身がクジラなど大型生物に捕食されるか、あるいは死んで海底に沈むことで、炭素が深海に運ばれ長期間貯留される。このプロセスは「生物ポンプ」と呼ばれ、大気中の二酸化炭素を海洋に固定する重要なメカニズムとなっている。
「クジラポンプ」仮説との関連性
近年注目されている「クジラポンプ」仮説とも深く関連している。クジラがオキアミを大量に摂取し、栄養豊富な排泄物を海面近くに放出することで植物プランクトンの成長を促進し、さらにオキアミの餌を増やすという循環が生まれる。これにより、炭素吸収サイクルが強化される可能性が指摘されている。
南極海では、クジラの潮吹きが観測船のすぐ近くで見られることもあり、研究者たちはこうした生態系の相互作用を間近で観察している。オキアミとクジラの関係は、単なる捕食・被食関係を超え、地球規模の炭素循環に寄与する複雑なシステムを構成している。
気候変動対策における新たな視点
気候変動対策として、森林保護や再生可能エネルギーへの転換がよく議論されるが、海洋生態系、特に南極のオキアミのような微小生物が果たす役割への理解も深まりつつある。生物多様性の保全が、結果的に炭素吸収能力の維持・向上につながる可能性を示唆している。
南極観測船しらせによる継続的な調査は、こうした微小生物と大型生物の相互作用、そして地球環境全体への影響を解明する貴重なデータを提供している。気候変動の未来を考える上で、南極の海とそこに棲む生物たちが握るカギは、ますます重要になっている。



