蓄電池が産業の「心臓」へ進化 容量と出力の向上で新時代を牽引
世界的に需要が高まる蓄電池産業において、国内外で技術開発と市場争奪の激しい競争が展開されています。電池業界では、部材・素材産業を持続可能な形で発展させることが重要な課題となっています。240社以上の会員企業を擁する「一般社団法人 電池サプライチェーン協議会(BASC)」の成瀬悟郎・業務執行理事に、日本電池産業の現状と展望について話を聞きました。
中長期的な市場成長に変わりなし
電池需要の変動が激しい局面に見えますが、成瀬理事は次のように語ります。「各国の政策変更で事業環境が変わり、短期的に多少の需要上下はあっても、中長期的には電気自動車が成長していくことに何ら変化はないという見方をしています。むしろ、業界としては日本製電池の好機と考えています」。
電気自動車用バッテリーについて、成瀬理事は汎用品という考えを持っていません。「特に日本の電池産業は、完成車メーカーと性能などで綿密な調整を行い、求められた性能を実現した特注品として、電池の完成度を高めています。単なる完成車メーカーとサプライヤーという関係以上のパートナーとしての協調体制を構築しています」と説明します。
こうした強い結びつきは、中国や韓国にはない特徴であり、現在のような一時的な需要停滞にも強いと指摘します。
競争激化の中で生まれる新たな連携
競争が厳しさを増す中で、BASCの活動から派生する形で、国内設備関連メーカー9社が産業横断型の製造プラットフォーム構築を推進する共同事業体を4月に設立する予定です。これにより、電池設備産業の競争力強化が期待されています。
成瀬理事はこの動きについて、「電池製造ラインの立ち上げ工数を減らし、リードタイムを減らし、コストを減らすことにつながるもので、日本の産業独自の動きとして注目されています」と評価します。
半導体に匹敵する100兆円産業へ
国も経済安全保障推進法の特定重要物資の一つに蓄電池を指定しており、その重要性は高まっています。成瀬理事は、「脱炭素社会に到達するために蓄電池は牽引役になると考えています。脱炭素社会の実現が、業界の使命であり、我々の企業活動とも両立できます」と語ります。
あらゆる産業で進む「デジタル化(DX)」においても蓄電池は重要であり、蓄電池産業は2050年までに半導体と並び100兆円規模になるとも言われています。「半導体が産業の『脳』なら、モビリティーの電動化やデジタル社会のインフラを支える蓄電池は産業の『心臓』であり、社会や経済にとって不可欠になってきています」と表現します。
特定の国に資源を依存しすぎないことが安定供給や持続可能性の観点からも重要であり、部素材の調達をはじめサプライチェーンの多角化を進めることが課題です。非常時に産業の自立性を維持するためにも、調達だけでなく、友好国と連携した製錬工程の確立についても必要性が高まっています。
安全性と信頼性で差別化
日本では三元系と呼ばれるリチウムイオン電池が主流ですが、需要の広がりという点から、三元系以外の「リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池」が普及していることは認識しています。しかし、三元系をはじめとするリチウムイオン電池には、容量や出力、安全性の面で進化していける余地があると考えています。
部素材に含まれている金属をリサイクルするという観点では、三元系はLFP電池と異なり、ニッケルやコバルト等の価値ある金属を含むため、回収し、利活用することに大きな経済合理性があり、市場原理のもとで循環経済が成立します。
欧州では電池メーカーの「ノースボルト」が破産し、量産の難しさに直面したとも言われていますが、成瀬理事は次のように指摘します。「一般的な話として、電池産業は製造設備を買ってきて、材料を供給してすぐに量産できるという産業ではありません。安全性や信頼性を担保して量産することは難しく、ノウハウの領域が大きいのです」。
日本の車載電池はこれまで電池が起因して、発火しメーカーが責任を負うような事故は一つも起きていません。「こうしたことが日本の電池産業の力を示していると考えています」と自信を見せます。
多様な市場に対応する電池進化
日本では電池のみを動力源としたバッテリーEVの普及は緩やかですが、エンジンを併用するハイブリッド車は世界に先駆けて普及しています。ハイブリッド車に搭載される電池の生産で、脱炭素に貢献するということも一つの考え方です。
BASCとしては、電気自動車もハイブリッド車も、両方とも大事な市場だと考えています。多様な電池領域で商品を提供していくのが電池産業の役割です。
世界市場で戦う時のポイントについて、成瀬理事は次のように語ります。「電気自動車の市場が拡大していく中で、航続距離を延ばすためコンパクトかつ容量の大きな電池が求められていますが、並行して、スマート化、SDV(ソフトウェア定義車両)の広がり、自動運転、AIを含めたコンピューティングの搭載など、様々な発展の方向性があります」。
車載用途だけでなく、生成AI等を支えるインフラやその他のアプリケーションでも、蓄電池のニーズと重要性は高まる一方です。電池も多様化するニーズに合わせて進化していかなくてはなりません。
電池サプライチェーンの各企業がそのニーズに応えられるよう、柔軟に変化し、リードしていくことが求められていると考えています。「日本はリチウムイオン電池発祥の国として先頭を走り続けていると自負しています。まだまだリチウムイオン電池は進化していきます」と結びました。
成瀬悟郎氏は1975年京都府生まれ。1998年、松下電器産業(現在のパナソニックホールディングス)入社。情報通信業界向けデバイスやOEM事業の営業・マーケティングなどを経て、2024年1月、パナソニックエナジー(株)に転籍。2025年11月より現職(パナソニックエナジーと兼務)。



