シェークスピアの悲劇「リア王」の上演が、近年相次いでいる。現在、彩の国さいたま芸術劇場では吉田鋼太郎の主演で上演中であり、9月には中村芝翫が新橋演舞場、内野聖陽が東京芸術劇場でそれぞれ演じる予定だ。このブームの背景には何があるのだろうか。
「リア王」ラッシュの現状
「こんなにも続くとは」「尋常ではない」――関係者は口を揃える。内野聖陽は今年2月の上演発表時に、「企画を立ち上げた時はこんなにも『リア王』ラッシュが続くとは思いもよりませんでした」とコメントしている。
2024年以降だけでも、段田安則、横内正、木場勝己、大竹しのぶらがリア王を演じた。企画・製作はパルコ、Bunkamura、松竹といった民間企業のほか、KAAT神奈川芸術劇場や東京芸術劇場などの公共劇場と多岐にわたる。さらに、明治時代の炭鉱女主を主人公に翻案した岩崎加根子主演の俳優座「慟哭のリア」など、独自の解釈による作品も登場している。
東京芸術劇場の内藤美奈子エグゼクティブ・プロデューサーは、「最初は全然知らなかった」とし、今年の「リア王」の続き方は「尋常ではない」と語る。あまりの続出ぶりに、企画を見送った大物俳優もいるらしいという。
ブームの背景:複数の要因
「リア王適齢期」説
4月、彩の国さいたま芸術劇場で「いまなぜ『リア王』か」と題した市民講座が開催された。講師を務めたシェークスピア全戯曲の翻訳家・松岡和子さんは、上演が続く理由として「リア王適齢期」説を提唱した。ロミオは少年、ハムレットは青年、マクベスは中年だが、リアは80歳超の設定。かつて40歳前後でリア王を演じた吉田鋼太郎は、「60代のうちに一度演じておきたかった」と語り、自身の年齢(67歳)が理由の一つだったと明かしている。松岡さんは「これまで、ハムレットやマクベスを演じた俳優が、ちょうどリア王適齢期になってきた」と指摘する。
現代社会との共鳴
また、物語のテーマが現代社会と深く共鳴している点も見逃せない。リア王は、権力の委譲、家族間の裏切り、老いと狂気、そして人間の本質を問う物語だ。現代の政治情勢や社会の分断、世代間対立など、観客が自身の問題として受け止められる要素が多く含まれている。独裁者の物語に託される観客の「希望」とも言えるだろう。
このように、俳優の年齢的なタイミングと、現代社会が抱える課題がシェークスピアの古典と重なり合い、リア王ブームを生み出している。今後も新たな解釈や演出による「リア王」が登場する可能性は十分にある。



