夏の野外フェスシーズンが到来する。新潟・苗場スキー場で開催されるフジロックフェスティバル(7月24~26日)は今年、過去にないチケットの売れ行きを記録している。初出演の藤井風に注目が集まるが、主催のSMASHに話を聞くと、鍵を握るのはそれだけではない。フェス全体を一つの「体験」として成立させるための新たな試みが見えてきた。(取材・文 共同通信=團奏帆)
ジャンル横断クルアンビン
集客が最も期待される2日目の土曜日、最大のグリーンステージのトリを務めるヘッドライナーとして登場するのは、アメリカのトリオ「KHRUANGBIN(クルアンビン)」だ。タイの古いファンクやロックに影響を受けつつ、さまざまな地域とジャンルの音楽を融合。インストゥルメンタルの楽曲が多く、リラックスした心地よい独自の世界を構築している。2019年のフジロックでは、林に囲まれたフィールド・オブ・ヘブンに出演した。
SMASHで長年フジロックの運営に携わってきた石飛智紹さんは「前回のフィールド・オブ・ヘブンでの様子はもちろん、2022年の来日公演での様子や、幅広い層に刺さる存在感が起用の決め手です」と語る。2022年には東京公演が3千人規模の会場で2日間開催された。「キャパをはるかに超える応募があり、客席のリアクションの熱量もすごかった。そこから、グリーンステージに立つ彼らを想像することができたんです」
幅広い層に届くアーティストだという分析も起用を後押しした。彼らの音楽の魅力は、さまざまなジャンルを融合させた世界観だが、ファンの関心は、ベースのローラ・リー・オチョアを筆頭に、個性的な衣装に身を包むメンバーのファッションにも集まる。
フジロックのプロモーションとブッキングを担当するSMASHの三田創さんは、自身の周囲でもクルアンビンのリスナーがヒップホップファンからクラブミュージックファンまで幅広く「普段ファッションに関心がある人の注目も集めていますね」と指摘する。音楽や存在感そのものがジャンル横断的なクルアンビンは「アートカルチャーを象徴する3人と言えるかもしれません」
アーティストが出演したいフェスに
グリーンステージの出演者として、クルアンビンの次に名前が記されていたのが藤井風だった。フジロック側がオファーを続けた末の初出演だが、クルアンビンと並んで名前が記されたことにはどんな狙いがあったのか。
クルアンビンが結成当初影響を受けたのはタイの古いファンクやロック。対する藤井風は、最新アルバムのタイトル「Prema」を古代インドのサンスクリット語から付けており、収録曲にはインドネシアで着想したものも含まれる。「どちらも東洋の影響を受けている。そういう点で、親和性があると思うんです」と三田さんは語る。
さらに、藤井風は「死ぬのがいいわ」が世界的ヒットを記録するなど、海外でも高い評価を受け注目される。起用の背景には、国内人気だけに着目するのではない、フジロックの戦略がある。
主催するSMASHは、早くからインターネットでのライブ配信にも取り組み、世界に向けてフジロックを発信してきた。SMASHにとってフェスは、日本のリスナーに洋楽を紹介するだけでなく、海外のリスナーに向けて日本の音楽を発信する“窓”でもある。藤井風は、海外に向けたフジロックの顔としてもぴったりだろう。
石飛さんは「フジロックを訪れたり見たりするお客さんにとっても、出演するアーティストの方々にとっても、国内外の音楽との新たな出合いや交流が生まれる場になればいいなと願いながら出演陣を決めていきます」と語る。
その結果、フジロックが世界の音楽シーンで強い存在感を放ち、アーティストにとって「出演したいフェス」になっていく。「将来的にフジロックに呼びたいアーティストに興味を持ってもらえるようなブッキングができたら、影響力を持ち続けられるかなと思っています」
フェスはプレイリスト
Spotifyなどのストリーミングサービスの普及で、国や地域、時代を問わずさまざまな音楽をすぐに聴けるようになり、音楽ファンの趣味は多様化の一途をたどる。誰もが知る納得のヘッドライナーを選ぶことは至難の業とも言えそうだが、石飛さんは「逆に、腕の見せどころです」と自信をのぞかせる。
かつて「ここでしか会えない大物」の招致に力を入れてきたフジロックが今、目指しているのは、新しいアーティストや音楽との出合いの場となること。その新たな出合いを演出するのが、クルアンビンと藤井風のようにアーティストとアーティストの間に親和性を見いだし、ステージに一つの文脈を付けることだ。「それがフジロックらしさ、個性につながっていくんだと思います」
聴ける音楽が増え続けるからこそ、フェスの役割は大きい。石飛さんは「フジロックというフェスを、われわれがキュレーターとなって練り上げたプレイリストととらえてもらってもいいかもしれません」と語る。フェスはそれをリアルに体験できる場だ。
せっかく来たなら“ついでに”いろんなアーティストのステージを楽しんでほしい。ブッキングを担当する三田さんも「フジロックをきっかけに、それまで知らなかったアーティストと出合い、好きになってくれることが一番の喜びです」と力を込めた。
いちおしは全身ドット柄の…
今年のグリーンステージのヘッドライナーは、初日がアメリカの野外大型フェス「コーチェラ・フェスティバル」出演が話題となったばかりのイギリスのバンド「The xx(ザ・エックス・エックス)」、最終日がパレスチナ自治区ガザへの連帯を示しイスラエルを非難するアクションを続けるイギリスの「Massive Attack(マッシヴ・アタック)」だ。
そんな中、“目利き”としての役割を自任するSMASHスタッフに、個人的ないちおしを聞いてみた。
石飛さんは初日出演となる、恒例の企画「ROUTE 17 Rock☆'n☆'Roll ORCHESTRA」を挙げた。ボーカルとして登場する今年のゲストは大江慎也、甲本ヒロト、浅井健一、トータス松本。「そうそうたるボーカリストたちが、初日のトップバッターとしてステージに立つ予定です」
三田さんのおすすめは、全身ドット柄の強烈なビジュアルも印象的なカナダのデュオ「Angine de Poitrine(アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ)」。「ビジュアルも曲もとても面白く、パフォーマンスは圧巻でしょう」。フジロックが初めて苗場スキー場で開催された1999年に出演したバンド「Hi-STANDARD」がフジロックに戻ってくるのも見逃せない。
出演するたびに壮大なスケールのステージを繰り広げる音楽家の平沢進も、今年「平沢進+会人」としてどんな楽器で挑むのか気になるところという。
フジロック開幕まで1カ月半、期待は高まるばかりだ。



