谷口悟朗監督が語る『パリに咲くエトワール』 異世界転生もチートもロボもいらない理由
谷口悟朗監督『パリに咲くエトワール』異世界転生不要の理由

『パリに咲くエトワール』谷口悟朗監督が語るオリジナル作品へのこだわり

20世紀初頭のパリを舞台に、日本から渡った2人の少女の夢と成長を描く長編アニメ映画『パリに咲くエトワール』が2026年3月13日に公開された。『ONE PIECE FILM RED』の谷口悟朗監督と、『魔女の宅急便』のキャラクターデザインを手がけた近藤勝也らベテランスタッフが作り上げた、原作のない完全オリジナル作品だ。

異世界転生もチート能力もロボもいらない理由

谷口監督は作品についてこう語る。「より幅広い層の人たちに楽しんでもらうには、異世界転生やチート能力、ロボもいらない」。現代のアニメ市場では原作のある作品が主流となる中、なぜ谷口監督はあえてオリジナル作品にこだわったのか。そこには日本のアニメ業界に対する深い危機感があった。

画家を夢見るフジコと、武家の家系に生まれながらバレエに心惹かれる千鶴。2人の少女がパリでそれぞれの夢に向かって歩み出す物語は、第一次世界大戦という歴史的な転換期を背景に展開する。しかし谷口監督は「これは戦争映画ではない」と強調する。

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手描きのこだわりと時代考証

作品制作においては、細部まで徹底した時代考証が行われた。なぎなたのシーンでは、殺陣作画監督の中田栄治が実際に道場に通って取材を重ね、現代の競技用ではなく武道としてのなぎなたを忠実に再現。バレエシーンでは、振付師とダンサーによるモーションキャプチャーを基にしながらも、最終的には手描きにこだわった表現が追求された。

背景美術についても、パリとモンマルトルの石畳の起伏の違いまで調べ上げ、美術監督の金子雄司が手描きを中心に描き起こした。谷口監督は「デジタルツールだと一直線できれいに線を引いてしまうが、現実の空間は少しゆがんでいる。ビルも微妙に傾いていたりするから」と、デジタルでは出せない質感へのこだわりを語る。

オリジナル作品がなくなれば日本のアニメは終わる

谷口監督はオリジナル作品の重要性を強く訴える。「ここ数年、原作ものの方が利益を確保しやすいため主流になりつつあるが、原作ものだけになってしまっては、日本のアニメはもうおしまいだ」と危機感をあらわにする。

監督によれば、原作ものでアニメの作り手が使うのは「アレンジャーの能力」、つまり編曲者の能力に過ぎないという。作詞作曲のようにゼロから創造する能力を養わなければ、プロデューサーもどうすればいいか分からなくなり、意識が原作の下請けになってしまうと指摘する。

「いずれ原作ものの波がなくなった時に、そうじゃない要素がちゃんと残るべきだ。多様性があるからこそ、生き残った作品が次の時代のメインストリームになる。ここが日本アニメのいいところ」と谷口監督は語る。

幅広い層に届けるための選択

『パリに咲くエトワール』では、SFや異世界転生といった要素を意図的に排除した。谷口監督は「SFにしたら苦手な人たちもいるかもしれない。異世界転生でも見る人が絞られるかもしれない。より広い人たちに楽しんでもらうには、それらは必要ないと考えた」と説明する。

作品には「緑黄色社会」が主題歌を担当し、歌詞を通じて作品のテーマが表現されている。監督は「今回私がやろうとしたことの何割かは、『緑黄色社会』さんが主題歌の歌詞としてうまく拾ってくれている」と感謝の意を表す。

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アニメ業界の未来のために

最後に谷口監督は、オリジナル作品の意義をこう締めくくった。「原作がなければ、アニメーターがコンテを読んで、読解力を持って理解し、自分なりに表現しないといけない。ないものを作り上げる能力が必要だ。オリジナル作品がなくなったら、その瞬間に日本のアニメはおしまいだ。ただの下請けになるわけで、そんな業界に有望な人材なんか誰一人として来やしない」。

アニメ業界には夢が必要だと訴える谷口監督。「自分たちの表現、自分たちならではの考えを形にすることができる。その上で、原作ものもできるというような形になればいい」と、多様性のある業界の未来を展望している。