空き家問題と移住を描く群像劇 垣谷美雨『空き家と移住』書評
空き家と移住 垣谷美雨著 書評

終の住処を手に入れたいと願うものの、都心のマンションは軒並み一億円を超え、とても手が届かない。一方で、かつては実家として機能していた郊外の邸宅は、住む人もなく、リフォームにも解体にも莫大な費用がかかるため、放置され空き家と化している。

物語の概要

本書は、何としても住宅を購入したい働き盛りの30代カップルと、郊外の広すぎる実家を少しでも高値で売り払いたい60代夫婦とその陰気な一人娘の物語である。

巧みな群像劇

著者の垣谷美雨は、売り手と買い手の思惑を巧みにすくい上げ、軽妙かつ切実な群像劇に仕上げている。運命を打開しようと双方が選ぶ道は「え?そっち?」と意外で、ページを繰る手が早まる。

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風穂町の住民たち

そして、物語の舞台となる風穂町の住民たち。意地悪この上ないが、彼らにも言い分がある。まさにここが本書の魅力だ。悪口雑言や陰口は双方の怒りを募らせる。しかし、一旦怒りを収めて考えること――本当に欲しいものは何か? 我慢できないものは何か? 時間をかけて思案することが調和を生む。

移住を、あるいは実家の売却を考えているあなた。これから先待ち受けている困難を楽しめる一助になるかもしれない。(1980円)

評者プロフィール

長塚圭史(ながつか・けいし)は1975年生まれ。劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」を主宰し、劇作家、演出家、俳優として幅広く活躍。2021年からはKAAT神奈川芸術劇場(横浜市)の芸術監督も務める。

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