ダムに沈んだ村の記憶をARで蘇らせる「小河内タイムレンズ」が公開
約70年前、大半の集落がダムの底に沈んだ東京の旧小河内村の風景を、スマートフォンやタブレットを使って現在の湖面に重ねて見られるウェブアプリ「小河内タイムレンズ」が完成しました。地元の郷土芸能団体である川野車人形保存会が、AR(拡張現実)技術を活用して無料で公開し、「失われた村」の記憶を次世代へ伝える取り組みを始めています。
ダム建設による移転と歴史的背景
東京の水がめとして知られる多摩川上流の小河内ダム(通称・奥多摩湖)は、1938年に建設が開始されました。これにより、小河内村と山梨県の2村に住む945世帯が、高台や近隣の自治体への移転を余儀なくされました。文人墨客が訪れた鶴の湯温泉の源泉なども湖底に沈み、作家の石川達三は村民の苦しみを「日蔭の村」(1937年)で描いています。小河内村は1955年の合併で奥多摩町となり、ダムは1957年に完成しました。
アプリ開発の経緯と特徴
アプリの開発は、都内でゲーム開発会社を経営する濱田隆史さん(41歳)が約5年前に奥多摩町内に移住し、湖に沈んだ集落の様子を知りたいと思ったことがきっかけです。濱田さんが所属する川野車人形保存会で呼びかけ、賛同した有志とともに、町制施行70周年記念事業として半年前から開発を進めてきました。元住民への聞き取りも実施し、貴重な証言を収集しました。
アプリには2つのモードがあります。2Dモードでは、1935年頃の住宅地図を現代の地図と重ね、地図内の印をクリックすると、神社や暮らし、お店などに関する元住民の証言を組み込んだ解説や、民話の語りを聞くことができます。現地近くで使用できる3Dモードでは、湖に沈む地形や家の位置を立体的に見られ、当時の風景をよりリアルに体験できます。
開発者と住民の思い
濱田さんは「雪や寒さの厳しい日も、現地でアプリの修正に取り組みました。子どもたちの社会科見学や観光にも生かせるはずです」と語ります。聞き取りに参加した奥多摩町の女性(59歳)は「小学生の時、泣きながら集落とお別れをしたと語ったお年寄りもいます。そんな古里への思いを次の世代に残せれば」と願いを込めています。
利用方法と今後の展開
このアプリはウェブに接続すれば、ダウンロードなしにそのまま利用可能で、2026年2月27日正午頃のリリースを予定しています。川野車人形保存会は、地域の歴史や文化をデジタル技術で継承する新たなモデルとして、今後も活動を広げていく方針です。



