歌劇場の優雅な時間と外の現実の断絶
歌劇場からはオペラや演劇を楽しんだ観客がぞろぞろと出てきた。彼らは警察官たちが皆、歪に傾く十字の腕章をつけていることに呆気に取られていた。歌劇場の中で優雅な時間が流れている間に、前首相が退陣し、国のかたちが変わってしまったのだった。
金ボタンの危惧と隣国の計画
金ボタンは文士の言葉を思いだした。隣国の奴らは非常に計画的に事を運ぼうとしている。水面下ですべて用意されていたことをまざまざと見せつけられている気がした。大通りも広場も混雑していた。劇作家や芸術家や俳優たちは自棄になったように居酒屋で騒いでいて、文士を見つけることは難しそうだった。
オーナーの家での日々と街の異変
金ボタンは総支配人の勧めに従って、今夜は大人しくしておくことにした。オーナーの家は街の中心にあり、帝国時代からある古いカフェハウスの上階にあった。窓からは街の様子がよく見えた。総支配人はすぐに廊下の奥へ消え、金ボタンはメイド服姿の女中に慣れない接客を受けた。
そのまま、金ボタンは数日間オーナーの家に滞在した。オーナーは奥の書斎から出てくることはなく、金ボタンは総支配人に言いつけられるまま銀行に並んだり、手紙を届けたり、書類整理を手伝ったりした。
街に広がるJへの迫害と市民の関与
街は異様さを増していた。あちこちの街頭でJが捕まり、ブラシや雑巾を持たされ、地面に四つん這いにさせられていた。街の壁や道路には、金ボタンの父親たち「赤い矢」による独立や自由を促す落書きや、前首相や国民投票を支持する貼り紙があった。それらをJに掃除させているのだった。
富裕層へのひどい仕打ちと市民の嘲笑
Jの子供も老人も素手で床や壁を擦らされていた。その行為を強要しているのは、隣国の兵士ではなく市民だった。街の人々は路上に膝をつき掃除をさせられているJを取り囲んで囃したて、笑いものにしていた。
富裕層のJへの仕打ちは特にひどいものだった。
- 身ぐるみを剝がされ
- 車を奪われ
- 家を荒らされていた
男性たちが地面に這いつくばった若いJの女性の首に「私はJの豚です」と書かれた厚紙をかけて嘲笑している。
金ボタンの介入と兵士の警告
「おい、随分な紳士だな」と金ボタンが止めに入ろうとすると、若い隣国の兵士に囲まれた。姿勢が良く、ケピ帽から覗く金髪に青い眼、胸には短剣の記章がついている。皆、人形のように整った顔立ちをしていた。そんな青年兵士があちこちにいた。
金ボタンの身分証を確かめた同じ歳くらいの兵士が「穢れたJを庇う必要はない。民族の誇りを持て」と言った。「これが誇れることか?」と訊いた金ボタンを突き飛ばし、「身のためだぞ」と睨みつけてくる。



