360年続く老舗の味を継承、武者小路千家の家元教授の娘が「すはま屋」を開業
老舗の味を継承、武者小路千家の娘が「すはま屋」開業

360年続く老舗の味を継承、武者小路千家の家元教授の娘が「すはま屋」を開業

京都御苑近くの和菓子店「すはま屋」(京都市中京区)は、丸太町通に面した陳列窓に「洲濱」と呼ばれる菓子を飾っている。この洲濱は、入り組んだ浜辺の形を意匠化し、京都で700年以上前に生まれたとされる伝統的な和菓子だ。

幼少期から親しんだ洲濱の味

店主の芳野綾子さん(30)が洲濱と出会ったのは子どもの頃。千利休から続く茶道三千家の一つ、武者小路千家の家元教授を務める父親・宗春さん(65)が、正月に自宅の茶室で開く初釜で毎年出していた。芳野さんは、余った切れ端をもらって食べるのが楽しみだったという。

「甘さは控えめ。大豆の素朴な味がふわーっと伝わってくるのが好きだった」と語る芳野さん。その味は、江戸前期の1657年創業で360年続いた老舗「御洲濱司 植村義次」によって守られてきた。

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老舗閉店と新たな挑戦

しかし、14代店主の植村義夫さんが体調を崩し、後継者がいなかったため、2016年に店は閉店。宗春さんは「味を途絶えさせたくない」と植村さんに相談し、京都府立大学3年生だった芳野さんも同じ思いを抱いた。

植村さんから「それなら自分で作ってみたら」と提案され、親子で手ほどきを受けることに。材料の練り合わせ方や、三方から竹ざおで押して形を作る方法を教わり、芳野さんは月1、2回試作品を届けては練習を重ねた。

認められて開業、カフェ併設で新たな魅力を発信

1年ほど経ち、植村さんから「これならお客さんに出せる」と認められ、2018年の初釜で芳野さんが作った洲濱を客に出した。客からは「また味わえるとは思わなかった」と大きな反響があった。

大学では細菌を研究し、大学院進学も考えていた芳野さんだが、「洲濱をもっと勉強したい」と決意を固め、2018年11月に「すはま屋」を開業。植村さんから借りた空き店舗で、直伝の製法を守りながら営業を始めた。

新しい取り組みとして、店にカフェを併設。メニューにはコーヒーや抹茶、紅茶と洲濱二切れを楽しめる「洲濱セット」があり、コーヒーは「洲濱と合う」と植村さんが勧めてくれたものだ。

陳列窓を見て「洲濱って何ですか」と入ってきた客がコーヒーと味わい、気に入ってくれることも多く、小学校の茶道体験でも使われている。芳野さんは「洲濱を知らなかった人にも魅力が伝わればうれしい」とほほえむ。

伝統を守りながら新たな展開も

店では、洲濱を一口サイズに丸めた「春日の豆」や、落雁に洲濱の生地でツバキ、早蕨、桜など四季の文様を月替わりで描く干菓子「押物」も引き継いでいる。

開業から8年が経ち、近年は結婚式や能楽公演の記念品にオリジナルの絵柄で押物を頼まれることもあり、芳野さんは「自分らしく描いていけたら」と考えている。

360年続いた老舗の味を継承することに責任を感じていた芳野さんだが、植村さんから「小さい時から食べているから、自分がおいしいと思えば大丈夫」と励まされた。その言葉を胸に、懐かしくほっとする味を伝え続けている。

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