フランス幻想文学の巨匠、シュオッブの短編集
トルコ文学者の宮下遼さんが、心に響く三冊を紹介する。第一冊目は、マルセル・シュオッブ著『黄金仮面の王』(河出文庫、1430円)。シュオッブはフランス幻想小説の大家であり、その短編集は豊かな語彙と緻密な描写で綴られている。四人の翻訳者による格調高い美文が、物語の世界をさらに引き立てる。ただ出来事を追うだけで、どこか幽玄な気分に浸れるのが魅力だ。中でも「木の星」は、星々への憧れを胸に無限の森を抜け出そうとする無垢な少年が、砂丘や草原を越え、争いの国を旅する冒険譚。そのひたむきさがことのほか美しい。
モンテーニュのイタリア旅行記『旅日記』
二冊目は、ミシェル・ド・モンテーニュ著『旅日記』(岩波文庫、上下巻)。ルネサンス期の思想家モンテーニュが、腎臓結石の治療のために温泉を巡った旅の記録だ。下巻巻末の丁寧な解説を頼りに読むと、『エセー』の著者である彼の、少し身勝手だが気のいい中年貴族としての横顔が垣間見える。時代や地域が違っても、人間は似たり寄ったりだと感じ、ほっとする一冊。
最先端のスペースオペラ傑作選
三冊目は、ジョナサン・ストラーン編『新世代スペース・オペラ傑作選 星の海を駆ける』(創元SF文庫、1870円)。ローカス賞最終候補となったアンソロジーで、第一線で活躍する作家たちの短編を収録。特に「ベラドンナの夜」は、思い人との再会を待ちわびる切なさが、遠大な宇宙空間を背景に言語化されており、SFならではの魅力を堪能できる。長編作家も多く、本書を足がかりに読書を広げるのに最適だ。



