大阪在住の作家、朝井まかてさん(66)が、骨董業界を描いた時代小説『どら蔵』(講談社)でエンターテインメント文学の最高峰、吉川英治文学賞を受賞した。「“生涯最後”の受賞歴が『どら蔵』。やっちまいました」と語る朝井さん。軽妙で洒脱な作風が特徴で、太平の世に開花した町人文化の豊かさとともに、小説を読む幸福を存分に味わえる作品となっている。
作品の魅力と語りの芸
『どら蔵』は、大坂の道具商の放蕩息子・寅蔵(通称どら蔵)が、生半可な目利きで奉公先に迷惑をかけ、江戸へ向かう物語。骨董を見る目としゃべくりで世間を渡ろうとするが、プロたちに翻弄され続ける。朝井さんは「読者とセッションするようなリズムになれば、と意識した。西鶴、近松から織田作之助、田辺聖子さんへと連なる大阪の語りの芸が、私にも流れていたらうれしい」と語る。
作品には、丁々発止の駆け引きや、今で言う廃品のアップサイクルから通販までが描かれ、「どらたちがやってることを、何の心配もなく書きとどめる感覚でした」と振り返る。
美しい日本語と時代背景
江戸と大坂、武家と商家、大店と市井の違いはあれど、季節や人生の節目に合わせて空間を飾り、茶会や句会を楽しむ文化が描かれる。室礼、音物、香華、書肆、輩……。美しい日本語が読者を近世へ誘う。かつて葛飾北斎の娘(『眩』)や曲亭馬琴(『秘密の花園』)を書くために、膨大な資料を読み込んだ経験が生きたと語る。
最新作と今後の展望
最新作『豆は煮えたか』(文芸春秋)は、江戸・深川の豆餅が名物の水茶屋が舞台の連作短編集。『どら蔵』と同様に天保年間を背景とし、大坂発の大事件が描かれる。また、昨年12月刊の『グロリアソサエテ』(角川書店)は、100年前の京都を描く歴史小説で、民芸運動を提唱した柳宗悦らを主人公に据えている。
朝井さん自身も京都や大阪の骨董市を巡るのが大好きで、「いいなぁ、だけで買って普段に使ってきた。『美の発見』って、どういうことやろう」と語る。働きながら40歳代後半で作家デビューし、懸命に時代小説の約束事を身につけたという。円熟の今も挑戦したい題材は多く、「時代がどんどん下っている」ため、次の単行本では昭和を描く予定だ。「書けること、本を出してもらえることがうれしい。私は恵まれてます」と晴れやかな笑顔を見せた。



