占いと心理学は「混ぜるな危険」?対談本が問いかけるもの
占いと心理学は何が共通していて、何が決定的に違うのか――。占星術研究家の鏡リュウジさんと臨床心理士の東畑開人さんによる対談本『昼間のスターゲイザー 占いと心理学の対話』(集英社)では、古代地中海地方の肝臓占いから占星術、ユングの分析心理学やフロイトの夢分析に至るまで、占いと心理学について縦横無尽に語り尽くされています。鏡さんと東畑さんに本書について聞きました(以下、敬称略)。
「昼間のスターゲイザー」という書名の意味
東畑さんは「スターゲイザー」には「星を見る人」という意味があると説明します。夜空の星は見えますが、昼間は太陽の光で見えません。目には見えないけど、空の向こうに確かに星はある。見えるはずのない昼間の星を見つけようとする、それが「昼間のスターゲイザー」です。占いも心理学も同じように、見えないものを見ることに関わっている親戚のようなもの。それで、このタイトルになりました。
なぜ占いと心理学を混ぜると危険なのか
前書きに「混ぜるな危険」とありますが、東畑さんは「占いと心理学は、見えないものを見るという意味では同じですが、違うレンズで人間を見ている」と言います。例えば、X線と顕微鏡では見えるものが違うように、鏡さんは宇宙の星から人間を語ろうとし、東畑さんは心の暗闇から人間を語ろうとします。宇宙の暗闇と心の暗闇は似ているけれど、全然違う場所にあります。星と心は混ざりやすいけれど、安易に混ぜてしまうと混乱したり、中途半端になったりする。ときには有害な結果にもなるんです。
鏡さんは「近代科学の思考をベースにするのが現代の心理学。一方で占星術は古代からの神話的な知です。社会的にステータスの高い心理学に、占いは片思いしているところはあるけれど、僕は人間の心の深いところにある詩的で、物語を生み出す思考に基づく占いそのものの知をもっと評価してもいいと思っている」と述べています。
対話を選んだ理由
混ぜると危険なのに、なぜ対話しようと考えたのか。東畑さんは「人が悩むことやそこから前に進むことについて、僕は広く考えたいと思っていて、そういう意味で『混ぜると危険』なところがエキサイティングで魅力的に感じたからです。混ぜるのではなく、対話を重ねることで比較してみたかった」と語ります。鏡さんも「東畑さんは、自身の心理学を相対的に見る『メタ視点』をお持ちで、歴史的に占いと心理学が重なる部分をちゃんと知っておられる。入り口は違うけれど視点は似ているから、ちゃんと話ができるはずだと思いました」と付け加えます。
対話での新たな発見
対話してみての新たな発見について、東畑さんは「占いと心理学を混ぜた本は実はいっぱいある。でも、どれも我田引水の感がある。この本のように、占いと心理学のどこが一緒でどこが違うのか、比較しながら論じている本は他にないんじゃないかな。発見も多かったし、画期的な本だと思っています」と評価します。
鏡さんは「呪術に対する研究はものすごく蓄積があるんですが、占いに対する学問的な研究となると意外に少ない。ある人類学者は、呪術は近代の合理的な文化からみて明らかな『他者』であるけれど、占いは今の社会に溶け込んでいて、対象化しにくいからかもしれないと言ってます。面白い視点です。この本は心理学と占いという『似ているけれど違う』ものの異同と類似を探る試みなんです」と語ります。
よく当たる占い師に出会うには?
鏡さんが占いに興味を持ったきっかけは、子どもの頃のオカルトブームでタロットに出会ったこと。しかし中学生で「これって迷信じゃない?」と気づき、ユングに出会って「占いと似ている」と直感したそうです。
よく当たる占い師に出会う方法について、鏡さんは「僕らは『よく当たる占い師は、運のいい占い師』と言っています(笑)。占いは相性も大切です。自分の価値観と同じ人に占ってもらう方がいい。例えば、価値観が揺らいだときに背中を押してくれる人。そういう意味では、コンディションのいいときに占いに行くことをお勧めします。『引き寄せ』という言葉がありますが、気分が落ち込んでいるときは、運の悪い占い師に会いやすいです。いい気分のときに占ってもらって、相性がよければ、本当に困ったときに、また占ってもらえばいい」とアドバイスします。
カウンセラー探しのハードル
悩みを抱えているとき、占いだけではなく心理カウンセリングにも頼りたくなりますが、カウンセラーを探すのは占い師よりハードルが高い。東畑さんは「僕は大体、行政の窓口に最初に相談することをお勧めしています。お子さんの悩みだったら、区市町村に子育てセンターがありますし、学校にはスクールカウンセラーもいます。カウンセリングは自分で探すより、人に紹介されて行くことが多いのではないかなと思うんです。困ったことがあったら、周りに相談する。相談することによって、関係者が増え、専門家を紹介される可能性が高くなります」と述べます。
占いもカウンセリングもコミュニケーション
東畑さんは「人間関係も政治も経済も、結局はコミュニケーションに行き着きます。ただ、政治や経済のコミュニケーションは社会のシステムとして、決まりとか手続きがちゃんとあります。それに対して、占いや心理学は、あいまいな世界でのコミュニケーションだと思います」と語ります。鏡さんも「社会関係は、すべてコミュニケーションでしょう。ただ、今の社会では、どうしても明快でわかりやすく、文字通りのやりとりだけが重視される傾向がある。割り切れない気持ちを、曖昧なままに残しておくようなコミュニケーションの場を再評価する必要があると思います。シンボリックな占いの表現はそこで新たな輝きを持つと感じています」と付け加えます。
AIに悩みを相談することについて
AIに悩みを相談することについて、東畑さんは「AIに相談することで助かることもたくさんあります。人に相談するのは、実は怖いことなんです。心が一番つらいときには、『人間が怖い』という気持ちになります。嫌なことを言われるかもしれないし、傷つけられるかもしれない。その点、AIは怖さが少ない。人が怖いときは、第一歩としてAIに相談してアドバイスをもらうのは、いいことだと思います。それをステップにして、次は人間とつながるといいなと思います」と肯定的です。
夫や妻がAIに依存しているという悩みについては、鏡さんは「それはAIのせいじゃない。夫婦の問題です。AIも占いもカウンセリングも、他者に万能な何かを投影しちゃうのが問題なんです。カウンセラーのところに行けば、何でも解決できるとか、困ったときはAIに聞けばいいとか。一方で、AIというブラックボックスに神性を感じるようになる人も出て来るんじゃないかと、ちょっと夢想しています」と警鐘を鳴らします。
AIが神様になることについて、鏡さんは「怖いです。でもその一方で、日本には八方万の神々がおわすわけでしょう。新たな神的なものとのお付き合いの仕方が、問われるようになるのではないでしょうか」と語ります。
誰もが「昼間のスターゲイザー」
東畑さんは「人はみんな科学的に現実的に生きていると思っているけど、実は結構ファンタジックに生きています。誰かを見て『華やかだな』『陰鬱だな』と思うのも、一種の霊感ですから。印象という見えないものをぐるぐると連想しているんです」と指摘します。鏡さんも「時計を見たら、たまたま10時10分10秒だったら、ドキッとする。それも占い的な感覚なんです。何でも関連づけて想像を膨らませて、意味があるものにこじつけてしまう。これをバカバカしいと思うか、人生を物語化する人間的な心の働きと考えるか。この二つは両立します」と述べます。
東畑さんは「だから、人は誰でも『昼間のスターゲイザー』なわけです。占いや心理学なんて信じられない、うさんくさいと思っている人にこそ、この本を読んでほしいです」と締めくくりました。
(読売新聞メディア局 後藤裕子/写真 秋元和夫)



