戦争の記憶、写真で刻む 大石芳野『あすへの記憶』評
戦争の記憶、写真で刻む 大石芳野『あすへの記憶』

戦争が終われば、本当に平和が訪れるのだろうか。写真家・大石芳野は、この半世紀にわたり、広島、長崎、アウシュビッツ、コソボなど、戦禍を生きた人々と向き合い、その姿をカメラに収めてきた。彼女は常に「戦争は終わっても終わらない」という思いを抱き続けてきたという。

終わらない戦争の傷跡

本書では、ナチスの親衛隊に殺されると思った瞬間、白髪になった男性が著者に語った言葉が紹介されている。「恐怖は、いまも私を襲って苦しい」。また、ベトナム戦争では、森や藪に隠れて抵抗する市民に手を焼いた米軍が大量の枯れ葉剤を散布した。その健康被害に苦しむ人々の声にも、大石は耳を傾けてきた。

写真と言葉で刻む記憶

本書は、折々の思いを30点余りの写真とともに伝える。特に、ナチスの強制収容所を訪れた40年前の体験も詳しく綴られている。草花の緑に覆われた敷地を見つめ、穏やかな風景と惨劇が結びつかないでいた著者は、収容体験者から衝撃の事実を教えられる。「当時は茶色の世界でした」。人々は飢えに苦しみ、草も虫も食べていたという。

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時とともに記憶は風化し、戦争の爪痕は薄れていく。それに抵抗するため、文章は綴られ、写真は歴史を証言している。本書は、戦争の記憶を後世に伝える貴重な記録である。(2200円)

評者プロフィール

鵜飼哲夫(うかい・てつお)は1959年生まれ。1983年に読売新聞に入社。文化部記者として文芸を主に担当し、現在は編集委員。著書に『芥川賞の謎を解く』『三つの空白 太宰治の誕生』がある。

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