三陸・綾里の復興の光 山林火災後の夏祭りで出会った若者たちの笑顔の輪
岩手県大船渡市三陸町綾里地区は、2025年2月に発生した大規模な山林火災で大きな被害を受けた地域です。しかし、その半年後に開催された「綾里夏祭り」では、地元の若者たちが復興への歩みを着実に進め、笑顔の輪を広げていました。記者はこの祭りで若者たちと出会い、地域の絆と希望を目の当たりにしました。
食堂「三平」の心意気 無償提供で支える地域の絆
まず訪れたのは、三陸町越喜来にある食堂「三平」です。店主の菊地憲行さん(68)は、火災発生の翌日から避難者に無償で食事を振る舞いました。麺類や定食など、好きなメニューを何度でも提供するその心意気に、記者は心を打たれました。
経営の心配を尋ねると、菊地さんは「支援のコメや野菜があちこちから届くようになってね。それで続けられた」と笑顔で答えます。店の壁には、支援者や協力者の名前がずらりと並んだ紙が貼られていました。この日の「焼魚定食」はサバの塩焼きに刺し身、酢の物が付き、コーヒーも飲み放題で1000円。客がひっきりなしに入り、活気にあふれています。
さらに、早採りわかめを客に自由に配る発泡スチロールの箱が目に入りました。菊地さんの息子から間引きしたワカメが大量に届いたため、特別に提供していたのです。物価高や人口減に直面する中でも、菊地さんは「また何回でも来てくださいね」と温かい言葉をかけます。
夏祭りの抽選会 復興を願う若者たちの活躍
綾里地区を車で走ると、至る所に焦げた木々が残り、焼け跡の住宅地には更地が広がっていました。記者が初めて訪れたのは、延焼の恐れがなくなってから1か月もたたない2025年4月はじめ。まだ焦げ臭いにおいが漂う中、伝統の夏祭りが6年ぶりに復活することを知ります。
読売グループの仲間に声をかけると、巨人軍選手のバスタオルやマスコットのぬいぐるみ、花火のチケットなど20点以上の景品が提供されました。記者は景品を直接手渡し、激励するため祭りに参加。そこで出会ったのが、実行委員会メンバーの古川翔太さん(30)と東川今さん(28)です。
抽選会は祭りのメインイベント。500人以上の観客が見守る中、記者がくじを引き、東川さんが景品を掲げると、会場から歓声が上がりました。数か月前まで悲嘆に暮れていた住民たちの笑顔が広がり、記者は綾里の魅力にほれ込みます。
アワビ養殖業者の挑戦 火災からの再起を目指す
火災発生から1年を前に古川さんに会いに行きました。古川さんは、アワビの陸上養殖を手がける家業「元正栄 北日本水産」の専務を務めています。同社は東日本大震災の津波で社屋が全壊し、再建後も今回の火災で海水を送る管が焼け、育てていたアワビがほぼ全滅する打撃を受けました。
それでも古川さんは夏祭りの準備に奔走し、復興への道を模索しています。残った貝殻を使った翡翠色のアクセサリーの販売やスタディーツアーの受け入れ、新商品の開発など、多角的な取り組みを進めています。2025年6月に採った稚貝を育て、早ければ2027年末にも出荷を再開できる見通しです。夏祭りも大物の出演を調整中で、古川さんは「期待していてください」と前向きな姿勢を見せます。
自宅再建への思い 祭りが心の支えに
一方、東川さんは家族と暮らしていた自宅が全焼しました。祭りを開催するか否か、若者の間でも意見が分かれる中、東川さんは「こんな時だからこそ綾里を盛り上げよう」と開催を後押し。仮設住宅で暮らしながら協賛金集めに奔走しました。
2026年2月、再会した東川さんは「再建する自宅の基礎が出来上がりました」と笑顔で報告します。元の場所での再建をあきらめる住民は少なくないですが、東川さんは古里への愛着を語ります。「祭りが私の心の支えになっています」と話し、これからも地域を盛り上げていく決意です。
ワカメしゃぶしゃぶで感じる三陸の平穏
記者は盛岡市の自宅に帰り、食堂「三平」でもらった早採りワカメをしゃぶしゃぶにして食べました。しゃきしゃきとした食感と磯の香りが口いっぱいに広がります。1年前は避難指示でワカメを収穫できない時期が続きましたが、今こうして味わえる幸せをかみしめ、三陸がいつまでも平穏であることを願いました。
