生活圏に侵入するクマ、人身被害が過去最悪の水準に
日本各地でクマの市街地出没が相次ぎ、人身被害が過去最悪の状況となっている。環境省が発表したデータによると、今年度の人身被害者は1月末時点で236人に達し、このうち13人が死亡した。これは前年度の219人(死者6人)を上回り、2006年度以降で最多の記録となった。
住宅地や商業施設での出没が急増
朝日新聞の分析によると、2025年4月1日から11月26日までの期間に全国で報告されたクマ出没地点2万7949カ所のうち、住宅地や市街地などの「建物用地」での出没が少なくとも6896件確認された。スーパーマーケットや銀行の地下駐車場など、日常生活の場での遭遇事例も増加している。
盛岡市では2025年10月23日、市役所の裏側にある中津川沿いでクマの姿が確認されるなど、都市部への侵入が目立っている。こうした出没は集団登校の中止やスポーツ大会の延期、飲食店の営業自粛など、地域社会に様々な影響を及ぼしている。
秋の被害が全体の7割を占める
被害は特に秋期に集中しており、9月から11月にかけての被害者は161人(死者8人)で、全体の約7割を占めている。専門家によると、この時期のドングリの実りが悪かったため、クマが食料を求めて行動範囲を広げたことが要因と考えられる。
日本のクマは一般的に春から秋にかけて活発に活動し、冬は冬眠する。春から夏にかけては親離れした若い雄や、繁殖期の雄から逃れた親子連れが動き回る。秋になると冬眠に向けてエネルギーを蓄えるため、多くのクマが食料探しに奔走する。特にドングリなど主要な食料が凶作となった年は、クマの行動範囲がさらに拡大し、人身被害につながるケースが目立つという。
過疎化で緩衝地帯が減少
クマ被害の増加背景には、過疎化の進行によって山間部と人間の生活圏の間にあった緩衝地帯が減少していることが指摘されている。かつては田畑や里山がクマと人間の生活圏を分離する役割を果たしていたが、これらの地域の人口減少や耕作放棄地の増加により、クマが容易に市街地まで侵入できる環境が整ってしまった。
東北地方を中心に秋にかけて被害が急増したことも特徴的だ。地域によっては「クマ騒動」が日常化し、住民の生活に深刻な影響を与えている。
対策の難しさと今後の課題
クマ問題の解決には特効薬的な対策はなく、捕獲と予防を両輪とした中長期的な取り組みが求められている。事故を防ぐためにはクマの生態や行動パターンを正しく理解することが重要だが、一方で誤った情報が拡散するリスクもある。
いくつかの自治体では独自の対策を講じており、秋田県ではクマ担当の専門職員を倍増させ、秋田市では「公務員ハンター」を募集するなど、対応強化に乗り出している。鳥取県ではクマ対策の専門チームを組織し、市町村への支援を強化している。
環境省の統計によると、駆除されたクマの数も9765頭で過去最多を更新しており、ハンターへの負担増加や駆除後の処理方法など、新たな課題も浮上している。
札幌市ではヒグマの出没が過去最多を大幅に更新する事態となっており、専門家は「冬眠の時期が早まる可能性もあるが、油断は禁物」と警告している。
生活圏へのクマの出没をどう防いでいくかは、私たちの暮らしに直結する重要な問題として、継続的な対策と地域全体での取り組みが求められている。



