職場の飲み会は必要か?「飲みニケーション」減少の背景と企業の対応
職場の飲み会は必要か?減少する「飲みニケーション」

職場の飲み会は現代の職場に必要なのか?

忘年会に新年会、花見の後は暑気払い……。かつて職場の上司や同僚と良好な関係を築くために欠かせなかった飲み会が、近年大きく減少しています。コロナ禍に加え、働き方や価値観の多様化が背景にある中で、一体感や団結力の向上に役立つとの意見も根強く残っています。

飲み会を禁止する企業の論理

インターネット広告会社「ユニアド」(東京都渋谷区)は創業5年目の2019年、有志での集まりを除いて会社の飲み会行事を全面禁止しました。「仕事に必要ではなく、社員の負担軽減にもなる」と中釜啓太社長(39)は説明します。

中釜さん自身、20歳代の頃に上司からの飲み会の誘いを断れなかった経験や、酒席でのマナーに気をもんだ過去があります。若い社員に同じ思いをさせたくないという思いから、禁止を決断したそうです。

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同社では普段から業務での連絡を密に取っており、社員同士のコミュニケーションは良好だといいます。「飲み会が苦手な学生も入社を希望してもらえるし、誰もが働きやすい職場づくりができている」と中釜さんは語ります。

不動産大手「オープンハウスグループ」(千代田区)も社内ルールで原則「飲み会禁止」を掲げています。広報担当者によると、「同僚との酒席は愚痴や不満を言い合う場になりがちで、業務の役に立たない」との考えからで、社員からは「時間やお金を自己成長のために使えるので良い」といった声が出ています。

飲み会減少の実態と調査結果

コロナ禍では緊急事態宣言が出され、会社の飲み会は激減しました。収束後も以前の水準には戻っていません。

東京商工リサーチが昨年10月と12月にそれぞれ国内約6200社を対象にしたアンケート調査によると、年末年始に忘年会や新年会を「開催する」と回答した企業は57%で、コロナ禍前の2019年より20ポイントも低いままです。

  • 飲み会をやめた企業の67%が「必要性が高くない」と回答
  • 41%が「参加に抵抗感を示す従業員が増えた」と回答

この春から就職する人の中には酒が苦手で、「飲み会に行けないと人間関係が築けず、出世に影響するかも……」と不安を抱える人もいるでしょう。

酒と収入の関係に関する研究

東京大学の川口大司教授(経済学)のチームは、日本、韓国、台湾で働く計3500人の男性会社員を対象に、酒が飲めるかどうかと実際の収入や労働時間の関係を調査しました。

その結果、酒が飲めるからと言って収入が増えるわけではないとの結論に至りました。川口教授は「酒は仕事上の必要性からではなく、自身の楽しみとして飲んでほしい」と広く呼びかけています。

飲み会を積極活用する企業の取り組み

懇親会に年間3000万円を投資

中小企業向けコンサルティング会社「武蔵野」(東京都小金井市)の小山昇社長(77)は、「管理職は積極的に部下との飲み会を設けるべきだ」と持論を語ります。

同社では、年間約3000万円を社内懇親会の経費に割いています。日程は余裕を持って約1か月前に設定し、参加者には業務として「残業代」を支給しています。

小山社長は「懇親会で上司と部下の心理的な距離が近づけば、職場の問題点も見えてくる」と強調し、社員同士の絆が強くなったことで中途退職者が減ったと説明します。

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飲み会の利点を指摘する専門家

営業コンサルタントの菊原智明さん(53)は、飲み会への積極的な参加を勧めています。ハウスメーカーの営業マンだった20~30歳代の頃、飲み会によく出たという菊原さんは、上司にメンタル面の悩みを聞いてもらったほか、普段は接点のない社員とも交流し、仕事のサポートを受けることができたそうです。

明治大学の堀田秀吾教授(コミュニケーション論)は、飲み会について以下の利点を挙げています:

  1. 素の自分を見せ、他人との関係が強固になる
  2. コミュニケーション力が鍛えられる
  3. 職場の雰囲気や作業効率の向上につながる

堀田教授は「飲み会は日本の企業文化では必要な要素で、各企業は存続に知恵を絞ってほしい」と話しています。

現代的な飲み会の形を模索する企業

九州大学都市研究センターが20歳以上の会社員7500人を対象に「好ましい飲み会とは何か」を調査したところ:

  • 「参加・不参加の自由度が高い」が最も多く、男性12%、女性17%が回答
  • 「開催時間が適切(早い・短いなど)」も3位に入り、男性10%、女性12%が挙げた

こうした傾向に対応する動きも出ています。炭素材料メーカー「カーボンフライ」(東京都江東区)は2024年に社員用のバーカウンターを社内に設け、ソフトドリンクやアルコールを無料提供しています。

同社広報は「移動時間がかからず、開催時間も自由。社員の満足度は高い」と説明します。

飲み会文化の歴史的変遷

古来の慣習から現代へ

日本企業の飲み会文化の原点は、古くは奈良時代に遡ります。民俗学者の神崎宣武さん(81)によると、神前に供えた酒を祭事の参加者らが酌み交わす文化が存在したとみられます。

中世の武家社会では主従関係を結ぶ儀式として杯の受け渡しが行われ、戦国時代は陣営の結束力を高めるのに酒席が不可欠でした。「古来の慣習が、現在の飲み会にも引き継がれている」と神崎さんは指摘します。

「飲みニケーション」の登場と変容

「飲みニケーション」という言葉は、1980年代頃から注目を浴びました。ニッセイ基礎研究所の広瀬涼研究員は「当時は空前の好景気を背景に、仕事中心の価値観が強まり、飲み会は職場の結束を高める場として機能した」と説明します。

しかし最近は、日本人の酒離れが進んでいます:

  • 国税庁によると、成人1人当たりの年間酒類消費量は2023年度に75.6リットルで、ピーク時の30年前から3割も減少
  • 厚生労働省の2023年調査では、成人約5000人のうち飲酒の習慣がない人が8割を占める

さらにタイパ(時間対効果)重視の若手社員を中心に飲み会を避け、上司側もハラスメントと言われないよう呼びかけを控える風潮もあります。

多様化する飲み会の未来

女性の社会進出、働き方の広がりもあり、飲み会が今後存続するとしても、多様化は避けられないでしょう。広瀬研究員は「多くの社員の立場や意思を尊重し、共感を得て開催するスタイルが主流になる」と予測しています。

職場の飲み会は、単なる酒席を超えて、現代の職場環境や企業文化を映し出す鏡となっています。各企業が社員の多様なニーズに応えながら、効果的なコミュニケーションの場をどのように創造していくかが、今後の課題と言えるでしょう。