湖西市中学いじめ問題、7年経ても癒えぬ傷 学校・行政の鈍い対応が被害者を苦しめる
湖西市中学いじめ7年、行政対応の遅れで被害者苦しむ (21.03.2026)

湖西市中学いじめ問題、7年経ても癒えぬ心の傷

普段は仲が良い小学5年生の男児3人。しかしある日、1人が離れた場所でうつむいていた。これは福井県で勤務していた3年前、小中学生向けスポーツクラブのボランティアスタッフとして目撃した光景である。

他の2人は「あの子がたたいてくる」「うるさい」と訴えた。私は、嫌なことがあっても無視せず、気持ちを言葉で伝えるよう勧めた。幸いこれは一時的なけんかで、すぐに仲直りした。

しかし、すべてのいじめが早期解決するわけではない。現在の勤務地である静岡県湖西市では、2019年に中学校で発生したいじめ問題が長期化している。学校と市教育委員会の対応が遅れたため、被害生徒の保護者は市に強い不信感を抱き、調査を巡る対立が続いている。

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「いじめではない」という学校判断

当時中学2年生の女子生徒は、同じ部活動の生徒たちから無視されるようになり、心身の調子を崩して不登校になった。保護者は学校に相談したが、学校は暴力行為がないことを理由に「いじめではない」と判断。十分な調査が行われず、不登校は長期化した。

生徒が卒業した後、保護者の申し立てを受け、市教委はいじめ防止対策推進法に基づく「いじめ重大事態」として第三者委員会を設置した。委員会は1年半の調査を経ていじめを認定したが、保護者は報告書に具体的な行為が記載されなかったことを批判。

さらに、第三者委員会の人選や調査中の説明不足も問題視し、文部科学省のガイドラインに沿った調査だったかの検証を要求。「再調査に近い形での検証」を求めたが、当時の影山剛士市長は調査過程のみの検証を約束し、再調査はしない方針を示したため、協議は平行線をたどった。

急転直下の謝罪と内部調査

昨年8月、事態は急展開した。前年末に就任した田内浩之市長が保護者と面会し、「検証委員会を設置せず、再調査もしない」と伝えて謝罪した。市は日本弁護士連合会に弁護士の推薦を依頼したが断られ、代わりに市職員による内部調査を実施。

内部調査では重大なガイドライン違反はなかったと結論づけられた。保護者は「2年以上待たされたのに…。到底、納得できない」と憤りを露わにしている。

無視と悪口が残す深い傷

学校と市教委は被害者側に誠実に向き合ったと言えるのか、疑問が残る。いじめ問題に詳しい明治大学の内藤朝雄准教授(社会学)は、対応が不適切だったと指摘する。

「対策をサボタージュしてできる限り引き延ばし、被害者と保護者が諦めるのを待つという戦略では」と分析。生徒が深く傷ついているにもかかわらず、「ささいないじめで大げさに騒いでいる」というレッテルを貼られることで、二次被害が生じている可能性があるという。

内藤准教授は「日本中の学校で多くの子どもが苦しんでいる、普遍的だがはっきり見えてこない現象の典型例」と指摘。「極端な集団教育を採用する日本の学校では、優勢なグループによる無視や嘲笑、悪口に、被害者は強い苦しみを感じる。より開放的で、心理的な距離を自由に調節できる教室空間が必要」と訴える。

今も続くトラウマの苦しみ

湖西市の元生徒は現在も頭痛や目まい、低血圧に苦しみ、いじめの記憶がフラッシュバックして突然涙が出ることもあり、日常生活に支障が出ているという。

長期間にわたりいじめの心的外傷に苦しむ人は少なくない。東京でカウンセリングルームを営む心理カウンセラーの下村順一さん(53)は、中学3年生の頃に約10カ月間、同級生から罵倒され、殴られ続けた経験を持つ。

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その後も人間関係の悩みやうつ病に苦しみ、回復に13年を要した。現在はいじめのトラウマに苦しむ人々が体験を共有し、支え合う自助グループを運営している。

下村さんは湖西市の事例を「大人の欺瞞を示している。いじめをしても許されるという間違ったメッセージとして子どもに受け止められる」と厳しく批判。被害者に必要なケアについて「人としての誇りを取り戻していくことが回復のプロセス。被害者の気持ちを共感的に聴いていくことに尽きる」と語る。

子どもの最善の利益を第一に

いじめは子どもの心身に深い傷を与え、その後の人生に大きな影響を及ぼす可能性がある。学校や行政は大人の事情より子どものことを第一に考え、迅速な対応を取らなければならない。

下村さんは、いじめ被害者が「誠実で信頼できる大人に一人でも多く出会い、中長期的に支援されること」の重要性を強調する。学校や行政は「誠実で信頼できる大人」として、いじめと真摯に向き合うことが求められている。