お台場の海に藻場再生プロジェクト、水質改善と温室効果ガス削減に期待高まる
東京・お台場の海で、海草や海藻が茂る「藻場(もば)」を再生する取り組みが積極的に進められています。このプロジェクトは、光合成による二酸化炭素(CO2)の吸収効果に着目したもので、魚のすみかとなるだけでなく、水質改善にも大きな期待が寄せられています。温暖化に伴う海水温の上昇で全国的に藻場が減少する中、東京港の環境再生を目指す動きとして注目を集めています。
親子連れが参加したアマモの種まき会
昨年12月中旬、お台場海浜公園(東京都港区)では、東京都などが主催する海草「アマモ」の種まき会が開催されました。親子連れら約200人が参加し、のりに混ぜた約2ミリのアマモの種をシートに塗り広げ、ダイバーが沖合40メートルの海中に沈める作業を行いました。このアマモは4月頃には50センチ程度に成長する見込みです。海釣りが趣味という東京都瑞穂町の小学5年生の男子児童(11歳)は、「アマモがたくさん生えて、いろんな魚が釣れる海になってほしい」と期待を込めて語りました。
東京港の水質悪化とオリンピックでの懸念
かつて「江戸前」という言葉で象徴されるほど水産資源に恵まれていた東京湾も、東京港周辺では埋め立てが進み、藻場は次々に姿を消してきました。河川からは窒素やリンを含む排水が流れ込み、赤潮を引き起こすなど水質の悪化が深刻化しています。お台場海浜公園は東京オリンピック・パラリンピックでトライアスロンやオープンウォーターの会場となりましたが、水質や悪臭を懸念する声が上がりました。海草や海藻には窒素やリンを吸収する働きがあり、藻場の再生は水質改善につながると期待されています。
東京都は2022年度から東京港内で藻場をつくる実証実験を進め、今年度は本格的な藻場づくりに着手しました。環境保全への理解を深めてもらうため、都民らを招いた種まき会を企画し、今後はお台場に加え東京港野鳥公園(大田区)など計5か所でアマモやワカメの藻場づくりをスタートさせます。生育状況を定期的に観察しながら定着を目指す方針で、都港湾局の堀江良彰・環境対策担当課長は「東京港を豊かな海にしていきたい」と意気込みを語っています。
ブルーカーボンとしての藻場の重要性
近年、藻場は温室効果ガスの削減策として脚光を浴びています。アマモなどの海草やコンブ、ワカメなどの海藻がCO2を取り込み、海底や深海に蓄積・貯留される炭素は「ブルーカーボン」と呼ばれます。世界的な森林火災や伐採の広がりで、樹木が吸収する炭素(グリーンカーボン)が減少する中、海に囲まれた日本ではブルーカーボンの重要度が高まっています。藻場は魚類や甲殻類など多様な生き物が生息する場ともなり、水産資源の回復につながる利点もあります。
国土交通省は、全国14か所の港湾で藻場や干潟の整備・再生に取り組んできました。例えば、山口県周南市では工事で出た土砂で30ヘクタールの人工干潟を造成したところ、アマモなどが自然発生したと報告されています。横浜港でも護岸整備を通じた藻場の形成が進んでいます。環境保護に関心を寄せる企業も積極的で、日本製鉄は2004年度から製鉄の過程でできる副産物を「肥料」として活用し、北海道増毛町沖の藻場は7年で5倍超に広がりました。現在は全国70か所で漁協や自治体とともに藻場づくりに取り組んでいます。
海水温上昇による課題と今後の展望
しかし、日本全体では藻場の減少傾向に歯止めがかかっていません。国立環境研究所によると、2023年度の藻場面積は14万8000ヘクタールで、1990年度から半分未満に縮小しました。海水温の上昇による枯死や、魚やウニなどによる食害が原因とされています。ここ数年、猛暑が藻場に悪影響を及ぼしており、横浜市などでアマモ場の再生活動にあたるNPO法人「海辺つくり研究会」によると、市内でつくった藻場は2020年頃にほぼ消滅し、2023年には千葉県木更津市にあった天然の藻場もなくなったといいます。
種まき用の種の確保にも苦労する状況で、古川恵太理事長は「藻場の生育条件は水温が28度以下です。海水温が30度を超える暑さではどうしようもない」と頭を抱えています。日本は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指しており、国立研究開発法人・港湾空港技術研究所の桑江朝比呂・沿岸環境研究領域長は「達成には藻場が欠かせない」と強調しました。その上で、「高水温に耐えられる品種を生み出すなど、行政や民間の連携を強化していく必要がある」と今後の課題を指摘しています。



