マンション修繕委員会への住民なりすましが40件、工事受注狙う工事会社社長が認める
マンションの大規模修繕委員会に、住民になりすまして参加していた工事会社の男性社長が、朝日新聞の取材に応じた。修繕工事の受注が目的で、これまでの件数は「40件くらい」と話した。この会社は大阪府東大阪市に本社があり、社員2人が昨年5月、神奈川県のマンションの大規模修繕委員会に偽名で参加し、県警に逮捕されている。
「年間10件、4年で40件」と社長が説明
今年1月に取材に応じた社長は、マンション修繕委員会に社員が参加し始めたのは2020年ごろだと説明した。修繕を予定するマンションのポストにアルバイト募集のチラシを入れ、応募してきた住民に接触。その家族らの名をかたって「代理出席」した例が多いという。
委員会に参加したマンションの数について、社長は「年間に10件あったとして4年で40件。そのくらい」と述べた。大規模マンションが中心で、関西よりも関東が多かったという。ただし、その全てで修繕工事を受注できたわけではないとしている。
管理会社のマージン問題が背景に
社長の主張によると、同社は2017年ごろまで、マンション修繕工事を受注する際、マンションの管理会社にマージンを支払わされていたという。社長は工事費が割高になっていると考え、チラシをまいて住民に直接、自社をアピールする営業を始めた。
社員は「管理会社が良くないんですよ」などと住民に伝え、自社が受注できる方向に話を進めたといい、「社内では『誘導』という隠語で呼ばれていた」と話した。こうした営業の中で、修繕委員会について住民側から「自分で行ったって知識もないから代わりに行ってくれ、と頼まれた」と主張。住民になりすまして委員会に入り込む手法が生まれたという。
「罪の意識はなかった」と社長
住民の親族らが代理で修繕委員会に参加する例は一般的によくあるとし、社長は「正直、罪の意識はなかった」と話した。警察に摘発されたことは「想定外」とした。今後については「同じ手法をとっていくつもりはない」と述べた。社員らが修繕委員会に出した文書や説明については「ひとつもうそはない」と主張した。
社長は取材に応じた理由について「なりすましの背景に、管理会社が工事会社から取るマージンがあることを知って欲しい」と語った。
大規模修繕工事の仕組みと事件の概要
大規模修繕工事は、一般的に10~20年に1度行われ、1回で億円単位になることも珍しくない。住民でつくる管理組合が修繕委員会を設置し、工事内容や施工会社を決めることが多い。
神奈川県のマンションで2025年5月、住民らでつくる大規模修繕委員会に、大阪府東大阪市の修繕工事会社の社員の男2人が偽名で入り込んだとして、県警に住居侵入容疑で逮捕された。2人は委員会の議事を妨げ、委員らを誤信させて契約を結ぼうとしたとして住民らに告発され、偽計業務妨害と詐欺未遂の疑いでも今年2月に書類送検された。
このマンションでは、「覆面調査のアルバイト」とうたうチラシがまかれ、住民女性が応募。逮捕された男が女性に接触し、この住民の夫になりすまして修繕委員会に参加していた。
専門家のコメントと社会的背景
法政大学法学部教授の河野有理氏は、この件について「マンションは住民自治のデモクラシーが鉄則だが、住民の方に専門的知識があるわけではない。大規模修繕にあたっていかなる業者が相応しいのかを判断する能力は確かに住民側には乏しいだろう」と指摘している。
この事件は、マンション管理における透明性と住民保護の重要性を浮き彫りにした。修繕工事をめぐっては、高額な積立金が狙われるケースも多く、公正取引委員会が調査を行うなど、社会的な関心が高まっている。



