休日にネクタイを締め、スーツを着て街を歩くイベントが注目を集めている。仕事着の軽装化が進み、日常的にスーツ姿を見る機会が減少している中、あえてスーツを着用するこの取り組みは、その魅力を再発見する場となっている。
「背広散歩」でスーツ愛好家が集結
4月中旬の土曜日午後、札幌市の大通公園で、スーツ愛好家が集まり街中を歩くイベント「背広散歩」が開催された。流麗な仕立てが特徴の「ナポリスタイル」や、肩が張ったかっちりとした「ブリティッシュスタイル」など、愛用のスーツに身を包んだ20代から70代までの男性約40人が参加。カメラマンによるスナップ撮影や集合写真の後、全員で「背広散歩、最高!」と叫びながら拳を突き上げ、隊列を組んで約1キロ離れたさっぽろテレビ塔付近まで歩いた。
光沢のある茶系のオーダースーツを着た公務員の男性(46)は、滋賀県近江八幡市から参加。「春直前の街の色に合わせてコーディネートしました。スーツを愛する仲間の着こなしを見たり、情報交換できたりして楽しかった」と満足げに語った。
イベントの背景と広がり
「背広散歩」は2023年10月、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が広がりスーツの着用機会が減少したことを受け、紳士服業界の有志がスーツの魅力を再認識してもらおうと開始した。これまでに東京の浅草や丸の内、大阪などで開催され、札幌で節目の10回目を迎えた。参加者のスナップ写真を公開するインスタグラムのフォロワーは回を重ねるごとに増え、1万人を超えている。
主催者の一人でコミュニケーションプランナーの安武俊宏さん(41)は「スーツを楽しむ場として認知されるようになってきました。スーツ離れが進んでいますが、今後もイベントを通じて同志を増やし、業界を盛り上げていきたい」と意気込みを語る。
スーツ市場の縮小とビジネスカジュアルの浸透
ビジネスマンの仕事着の基本とされてきたスーツだが、市場規模は縮小傾向にある。総務省の家計調査によると、2025年の1世帯あたりの男性用スーツ支出額は2429円。最も多かった1991年の1万9043円の約8分の1に落ち込んだ。
スーツスタイリストの三好凛佳さんによると、2005年に始まった夏の軽装「クールビズ」をきっかけに仕事着のカジュアル化が進み、コロナ禍の外出制限やその後の働き方の変化、気候変動による夏の長期化が追い打ちをかけ、スーツ離れが加速。ジャケットにパンツ、セットアップにTシャツなど、快適さを重視した「ビジネスカジュアル」が浸透している。
三好さんは「スーツは、着る人が少なくなる中で、教養や品格を示すものになりつつある」と指摘。その中で「背広散歩のようなイベントが自己表現の場や着こなしの学びの場として注目されているのかもしれない」と話す。
海外でも広がるスーツウォーク
今年1月にはイタリア・フィレンツェで開催された世界最大規模の紳士服国際見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」の公式イベントとして「Sebiro Sampo」が実施され、約180人が市内を練り歩いた。見本市関係者によると、スーツ離れは世界共通の傾向で、幹部は「スーツが持つエレガンスを世界に発信できた。スーツの力を再認識した」と評価した。
オーダーメイドスーツの需要増
既製服スーツの売り上げが伸び悩む一方、オーダーメイドスーツは好調だ。帝国データバンクによると、上場紳士服7社の2024年度スーツ事業売上高は3564億円で前年度比横ばいだが、営業利益は177億円で6%増加。「販売着数は減少傾向にあるものの、単価の高いオーダーメイドスーツの需要が増した」と分析する。
「青山商事」が運営する「ユニバーサルランゲージメジャーズ」では、価格は既製スーツの1.7倍だが、着丈などを調整できるパターンオーダースーツが人気。同ブランドマネジャーの松田翼さん(35)は「スーツは毎日の『制服』から、商談など大事な場面で着る『勝負服』になった。その分、既製服にはない個性や着心地をオーダーでかなえたいと考える人が増えている」と話す。
スーツの新たな楽しみ方
思い思いのスーツを着て街を歩く「背広散歩」の参加者の表情は自信に満ちあふれ、格好良かった。好きな服を着ることの楽しさとその意味を改めて教えてくれるイベントだ。



