長野県出身の彫刻家、戸谷成雄さんが2026年4月に78歳で亡くなった。彼には「経歴から消したかった」と振り返る一作があった。それが愛知県立芸術大学の卒業制作で手がけた「器Ⅲ」だ。
「器Ⅲ」への後悔
「器Ⅲ」は正面を向いて目を閉じた木彫の男性像である。4年前、埼玉県の工房で戸谷さんは記者の質問に一瞬戸惑いを見せながら、口を開いてくれた。「恥ずかしい作品。あれは感情をかぶせすぎた」と語った。
新たな展開
後悔の上には、新たな展開があった。その後の戸谷さんの作品には、明らかに人物像と分かるようなものはない。しかし、徹頭徹尾、木を使った彫刻にこだわり続けた。恥じた過去も新たな表現も、地続きの木肌の上に成り立っていたのではないか。
母校に収蔵
「器Ⅲ」は今も母校に収蔵されている。巨匠にとって苦い歴史は、学生にとっては最良の教科書となる。作品を前に、将来を説く戸谷さんを見てみたかったと記者は述べている。



