埼玉県川越市の住宅街にある初雁幼稚園で、第2次世界大戦中にナチス・ドイツの迫害で命を落としたアンネ・フランクを追悼する「アンネのバラ」が、今年も鮮やかな大輪の花を咲かせた。このバラは、アンネへの思いを込めてベルギー人園芸家が品種改良で作り出したもので、3年前に地元の団体から寄贈された株が育てられている。普及に尽力する作家の野村路子さん(89)=同市=は、「子どもたちが犠牲になる戦争を決して行ってはならないと、人々に思い起こさせるきっかけになってほしい」と願いを込める。
色変わるアンネのバラ、平和の象徴として
11日昼過ぎ、川越市役所から徒歩数分の閑静な住宅街。子どもたちの遊ぶ声が響く初雁幼稚園の軒先で、アンネのバラが日差しを浴びて輝いていた。このバラの特徴は、咲き始めから散るまでに黄と赤の濃淡が変化すること。ベルギー人園芸家が、バラを愛したアンネに思いを寄せて作り、父オットー・フランクに贈られた。日本には1970年代に、オットーとイスラエルで知り合った合唱団が最初に持ち帰り、その後、広島県福山市のホロコースト記念館が株を増やして全国に広まった。
テレジンを語りつぐ会の活動
野村さんが代表を務める「テレジンを語りつぐ会」は、アンネと同じくホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の犠牲となったテレジン収容所の子どもたちが描いた絵を紹介する活動を続けてきた。「隠れ家で日記を書き続けたアンネも、厳しい監視下で絵を描いたテレジンの子どもも、決して夢や希望を捨てなかった」。子どもの将来を奪う差別や戦争を許してはならないという教訓を伝えるため、地元でこの花を多くの人に見てもらいたいと、語りつぐ会はホロコースト記念館から10株を譲り受け、2023年2月に会の活動に参加する幼稚園や講演会を開いた中学校、市役所など計5カ所に2株ずつ寄贈した。
中東情勢に悲しみ、日本の動きにも危機感
しかし、同年10月にイスラム組織ハマスの攻撃をきっかけに、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻が始まり、多くの子どもを含む7万人以上が犠牲となった。さらに今年は、米国とイスラエルがイランを攻撃。ホロコースト生存者とその子孫が暮らす国が紛争に関与し続ける現実を、野村さんは深く悲しむ。「国を守るためにやむを得ないと考えているのかもしれないが、それではいつまで経っても争いは終わらない」と訴える。また、憲法改正の動きが強まる日本の現状にも危機感を抱き、「自分の子どもが兵隊に取られることになってから慌てるのでは遅い」と警鐘を鳴らす。
季節ごとに咲くバラが伝えるメッセージ
アンネのバラは年に数回見ごろを迎える。この春は既に花がすべて落ちた株もあるが、季節が巡れば再び咲く。「なぜこのバラがここにあるのか、アンネがどんな思いで生きたのか、世界で何が起きているのか。自分自身のこととして考えてほしい」と野村さんは語る。バラが咲くたびに、平和への願いと非戦のメッセージが地域に広がっている。



