証拠開示「裁判官のさじ加減、おかしい」 無罪の願い叶わず亡くなった石川一雄さんの妻、法の是正訴える
刑事裁判をやり直す再審制度の見直しを巡る法務省の刑事訴訟法改正案は、自民党内からの反発で修正を繰り返す事態となり、着地点が見えない。議論は再審開始決定に対する検察官の不服申し立て(抗告)の是非に集中しているが、決定前の請求審段階の規定にも課題は多い。再審事件の当事者や支援者に思いを聞いた。
「裁判官に現場を見てほしい」
1963年に埼玉県狭山市で女子高生が殺害された「狭山事件」で無期懲役が確定し、無罪を訴えた石川一雄さんの願いは届かなかった。1977年に再審請求を申し立てて以来、裁判所に求めた鑑定や証人尋問は行われないまま、第3次請求中の昨年3月、86歳で亡くなった。
石川さんの遺影の前で長期化した審理について話す早智子さん。裁判所、弁護団、検察の3者協議が初めて開かれたのは、最初の請求から32年後の2009年9月。裁判長の勧告により、石川さんの筆跡を示す逮捕当日の上申書、被害者が使用したインク瓶などの重要証拠が数年ごとに開示され始めた。
「それまで検察は『関連性がない』と応じなかったのに、びっくりするような証拠が出てきた」。東京新聞の取材に、石川さんの妻早智子さん(79)は当時を振り返り、検察への不信感をあらわにした。「まだ開示されていない多くの証拠がある。公権力が、真実を明らかにするために集めた証拠をなぜ隠すのか」
証拠の万年筆が見つかった状況を示す早智子さん。石川さん宅跡に建てた事務所に事件当時のかもいなどを復元した。事件を巡っては、被害者のものとされる万年筆が石川さん宅のかもいで見つかり、有罪の根拠となった。2016年、その万年筆で数字が書かれた紙片を検察が開示。弁護団が専門家に分析を依頼すると、被害者のインク瓶などから検出された「クロム元素」が、数字からは検出されなかった。弁護団は「万年筆は被害者のものではない疑いがある」と主張している。
狭山事件とは
1963年5月1日、埼玉県狭山市の女子高校生が行方不明になり、自宅に脅迫状が届いた。身代金受け取りのために現れた犯人を県警が取り逃がし、同4日に遺体が見つかった。県警は現場近くに住む石川一雄さんを強盗殺人容疑などで逮捕。当初は自白し、一審で死刑判決を受けた。二審で自白を撤回して無罪を主張したが、無期懲役を言い渡された。1977年に最高裁で確定して服役、1994年に仮釈放された。
証拠の開示、解釈次第でより狭まる恐れ
法務省が検討する刑事訴訟法改正案では、証拠の開示について、請求理由との「関連性」や「必要性」などを裁判所が考慮するとしている。解釈次第では現行より開示範囲が狭まる恐れが指摘されている。
再審請求の審理が年単位の時間を要する事態を防ぐため、法制審議会(法相の諮問機関)部会では、関係者協議などの日程をあらかじめ指定する規定も議論された。だが、裁判官や学者の委員らが「手続きが硬直化する」と反対し、導入は見送られた。
自民党の部会での指摘を受けて法務省が示した修正案は、証拠開示範囲が「不当に狭くならないよう留意する」との努力義務にとどまる。日程を指定する規定も自民部会で議論はされたものの、修正案には記載されなかった。
3者協議一度も開かれずに突然棄却
石川さんの第1次請求は棄却まで7年超、第2次は18年超かかり、いずれも3者協議は一度も開かれなかった。長年支援してきた部落解放同盟中央本部の安田聡さん(71)は「3者協議がなければ、証拠開示など話が前に進まない。突然、棄却決定が届く仕組みはおかしい」と指摘する。
約19年を費やした第3次では裁判長が10人交代した。石川さんの死去で高裁が審理を打ち切り、昨年4月に早智子さんが第4次を申し立てた。
「良い裁判官に当たるといいですね」。早智子さんは、著名な元刑事裁判官に相談した際、返ってきたその言葉が忘れられない。「裁判官のさじ加減に左右されるのはおかしい。だからこそ指針となる法律が大事」と早智子さん。「夫は亡くなった後も手錠がかかったまま。軽くしてあげたい」と願う。



