市区町村の関心は今、クマ対策と生成AIの活用に集まっている。東京都内で5月13~15日、自治体職員や議員を対象に開催された商品・サービスの展示会「自治体・公共Week」では、両テーマを取り扱う企業ブースが活況を呈した。
クマ対策ゾーンが新設、過去最多の出没件数
9回目の開催となる今回は、民間企業など326社・団体が出展し、約2万人が参加。出展企業は「地方創生」「自治体DX」「スマートシティ推進」「地域防災」「自治体インフラ維持管理・老朽化対策」「地域福祉」の6部門に分かれて商品やサービスを紹介した。中でも人だかりができたのは「地域防災」エリアの「野生動物リスク対策ゾーン」だ。このゾーンはクマ対策を紹介するため今回新設された。黄色や黒といった派手な色調のブースにクマの模型が並び、堅い役所向けのブースが並ぶ展示会の中で異彩を放った。
環境省によると、北海道と九州・沖縄を除く38都府県で2025年度に記録されたクマの出没件数(速報値)は集計開始以降最多の5万776件。34都府県で確認され、それまで最も多かった23年度の2倍以上となった。住民の生命と財産を守る基礎自治体にとって、クマ対策は喫緊の課題といえる。
電気柵や国産スプレー、ドローンも活用
酪農で放牧する牛や馬向けの電気柵を製造販売するファームエイジ(北海道当別町)は、農地などへのクマ侵入を防ぐため、専用の電気柵や固定用ポール、フックなどを組み合わせた「緊熊セット」を販売。車や人の出入り口など柵を設置できない場合に使う電気マットも展示した。高田健次副社長は「今後は駆除だけでなく、人とクマの生活圏を分ける施策が重要になる」と話す。昨年から電気柵などへの引き合いが急増する中、直接農家へ販売するだけでなく、住民へのリース用に購入する自治体向けにPRに力を入れる。
一方、ひときわ目立つショッキングピンクのブースを用意したのは、クマ撃退用スプレーを製造するバイオ科学(徳島県阿南市)だ。自治体は駆除の司令塔として警察や地元猟友会と連携し、職員は見回りも行う。クマに遭遇する可能性も高いため、唐辛子成分を利用した撃退スプレーのように、万一の事態に備えたグッズは欠かせない。同社の「熊一目散」はガス成分から缶まですべて国産。使いやすさが特徴で、片手で取り出せる専用ホルダーまである。販売元のティムコ(東京都墨田区)の本多慎一郎主任は「直感的に使える構造でないと緊急時に役立たない」と話し、自治体のニーズを見込む。
別会場で開かれた基調講演でも、クマ対策への関心は高かった。13日に登壇した福島県昭和村総務課の小林勇介係長は、クマ探索に使うドローンの効果を報告。撮影映像を紹介しつつ「ドローンには熱を感知するサーマルカメラを搭載し、目視が難しい夜でも捕捉できる」と利点を強調した。当初、ドローンを別の目的で購入した昭和村は、人里でのクマ出没が急増したことで探索に使いだした。撮影映像を猟友会と共有し、駆除や罠の設置につなぐ現状を説明した小林さんが「中山間地こそテクノロジーを活用すべき」と訴えると、会場からは維持費や雨天時、降雪時の効果といった具体的な質問が相次いだ。
生成AIも注目、自治体DXが加速
ほかに来場者の注目度が高かったのが生成AIだ。自治体では、議事録や報告書の作成、データ分析といった庁内業務の効率化と、来庁予約システムやチャットボットといった住民サービス向上の両面でDXが進み、AI導入を図る自治体も増えている。行政課題の増加と人手不足の対応策といえる。
自治体DXエリアではスタートアップのポリミル(東京都港区)の存在が目立った。提供サービスを800以上の市区町村が導入しており、26年中には全都道府県・市区町村の7割近い1200自治体に達する見通しだ。AI事業について「行政シェアナンバー1」と称している。ポリミルのAIシステムを導入すると、中央省庁や全国の自治体の行政文書・議会議事録を出典付きで横断検索でき、議会答弁や住民向け情報の下書きも瞬時に作成可能になる。1団体当たり1000人まで基本サービスを無料で使える特長も強みで、ブースでは説明を受けて導入を検討する職員の姿があった。
谷口野乃花最高執行責任者(COO)によると、近く災害時などのデマ対策としてネット上の偽情報を分析するサービスも発表する。谷口さんは「単なるAIツールではなく、多くの自治体が使う『公共OS(基本ソフトウェア)』となるのを目指したい」と語った。
技術革新が速いAI分野では、企業側だけでなく自治体の動向も変わりやすい。会場にいたIT企業の担当者は「業務外でAIを使う自治体職員も増え、昨年まで様子見だった行政が具体的な相談を持ちかけてくるケースが多くなってきた。自治体向けビジネスも多様化し、こちらも他社の動きを勉強しながら営業している」と情報収集していた。四国の自治体から参加したDX部門の担当者は「これまで業務契約を行う際は能力や業績を評価せず、人の紹介や口コミに頼ることが多かった。展示会では、より良く安価なサービスを探せる」と述べた。
展示会、政策の選択肢を広げる場に
展示会を主催するRXジャパン(東京都中央区)によると、来場者数は右肩上がりで、昨年は北海道から沖縄まで554自治体の職員・議員が来場した。参加職員の担当はDXやデジタル化の推進業務(28.1%)が最多で、「企画・政策・総合戦略」(23.5%)、建設・土木(13.4%)と続く。出展企業は通信や交通、観光、旅行、コンサルティング会社など幅広い。重点ゾーンはクマ対策やAI以外に「防災備蓄・避難所改善」「地域脱炭素促進」「スマートモビリティ」などが新設された。開催当初は観光やまちづくりなどの分野の出展が多かったが、今は拡大・専門化している。
RXジャパンの岡部憲士常務執行役員は「自治体職員が出張してまで展示会に参加する習慣がなかった当初は、参加者や出展企業を集めるといった運営に苦労した。しかし最近は公共政策の選択肢を広げる場として使う自治体職員が増えている」と話した。



