パーキンソン病と向き合いながら憧れの東京マラソンを完走
2026年3月1日に行われた「東京マラソン2026」で、兵庫県西宮市の自営業・川下史博さん(51)が、パーキンソン病と診断されながらも見事に完走を果たした。記録は5時間39分21秒。ゴール後、川下さんは晴れやかな表情で「病気になると気が沈んでしまうが、何かに取り組むことで、少し人生が明るくなった」と語った。
44歳で診断、46歳でマラソン挑戦を開始
川下さんは44歳の時にパーキンソン病と診断された。この病気は、神経伝達物質「ドーパミン」を出す脳内の神経細胞が減少することで発症し、手足の震えや筋肉の硬化、動作が鈍くなるなどの症状が現れる。母もパーキンソン病と白血病を患い、2018年に亡くなっている。
診断のきっかけは、2019年に仕事終わりの時間にリラックスしていても貧乏揺すりが止まらなかったことだった。母の症状を思い出し診察を受けると、「やっぱり」という思いが先に立ったという。
趣味のロードバイクからランニングへ
足の筋肉のこわばりが次第に左右差を広げ、趣味だったロードバイクのペダルをこぐのが難しくなった川下さん。そんな時、友人がランニングに誘ってくれた。歩くのもつらい時がある中、勢いを付けて走り出すと足が進んだ経験から、「頑張ればできそうだ」と感じ、月に300キロを走るようになった。
2021年には初のフルマラソンで3時間半を切り、翌2022年には100キロを走る「ウルトラマラソン」も完走。原動力は「病気に抗いたい気持ち」だった。
病状の進行と新たな目標
しかし、病状は次第に進行。1年半ほど前からは体が言うことをきかないと感じる時が増え、仕事中に周囲から震えや鈍さを指摘されたり、パソコンをうまく打てなくなったりした。フルマラソンのタイムも2時間ほど遅くなり、完走できないことも多くなった。
昨秋、同じ病の人たちでつくるNPO法人に入会。メンバーごとに症状は違うが、「楽しみながら自分ができることを続けるすばらしさを教えてもらった」と語る。練習方法も工夫をこらす毎日だが、けがをせず楽しむことを目標に掲げた。
念願の東京マラソン完走と家族の支え
東京マラソンでは完走を目標に掲げ、満足に脚が動かない中、一歩一歩前に進んでゴールラインを越えた。沿道で走りを見守った妻の直子さん(45)と末娘の結愛ちゃん(1)が、完走後に「無事でよかった、お疲れさま」と出迎えた。
川下さんは完走の証しである金色のメダルを直子さんの首にかけ、「応援ありがとう。これからも走っていい?」と尋ねると、直子さんは「もちろん」とほほえんだ。
子どもたちへのメッセージと未来の夢
川下さんは「子どもたちに父親が頑張っている姿を見てもらいたかった。何かにつまずいた時には、自分の走りが力になってくれたら」と願いを語る。夢は妻と一緒に各地のマラソンに出場すること。「いつまでも走り続けたい」と笑顔で語った。
パーキンソン病と向き合いながらも、前向きに走り続ける川下さんの姿は、多くの人に勇気と希望を与えるものとなっている。



