愛知発、障害者が安心して宿泊先を探せる3Dポータルサイトが誕生
名古屋市北区に本社を置く工務店が、宿泊施設のバリアフリーの状況を3次元(3D)画像で詳細に確認できる画期的なポータルサイトを開設し、その普及活動を積極的に進めています。同社によれば、このようなサービスを提供するサイトは全国でも初めての試みであり、大きな注目を集めています。特に注目すべきは、車いすを日常的に使用する同社の社長自身が、当事者としての視点からこのプロジェクトを企画・推進している点です。
2026年アジアパラ大会を控え、環境整備が急務に
2026年秋に愛知県と名古屋市で開催が予定されているアジアパラ競技大会を目前に控える中、障害のある人々が気後れすることなく遠出や旅行を楽しめる環境づくりが社会的な課題となっています。このポータルサイトは、まさにそのようなニーズに応える形で開発されました。障害者や高齢者、そしてその介助者らが、事前に宿泊施設の詳細な情報を得られることで、安心して旅行計画を立てられるよう支援することを目的としています。
「IKKEL」の詳細な機能とその利便性
ポータルサイト「IKKEL(イッケル)」は、2024年10月に建築士の阿部一雄さん(61歳)が社長を務める「阿部建設」によって開設されました。外部の建築士ら約30名の専門家が協力し、全国の旅館やホテル約100カ所を実際に訪問。360度カメラを駆使して客室を3D画像で撮影し、サイト上で公開しています。
閲覧者は、通路の幅や段差の高さ、トイレや浴室のサイズなどを自分の目で確かめることが可能です。さらに、3D画像上で室内の寸法を自由に測定できる機能も備えており、阿部さんは「室内の細かい箇所も一目で理解できる。障害者が本当にその施設に泊まれるかどうかを、容易に判断できるようになった」とその利点を強調します。
当事者としての経験が生んだ発想
このサイトの構想は、阿部さんの長年の念願でした。建築士として働き始めてから約10年が経過した37歳の時、趣味のバイクで走行中に転倒事故に遭い、背骨を損傷。搬送先の病院で医師から「もう足は動かないだろう」と告げられ、以降、車いす生活を送ることになりました。
事故から3カ月半後に日常生活に復帰したものの、駅やビルには段差が多く、使いづらい点が多数あることに気付きました。特に不便を感じたのは、出張先の宿泊施設です。車いすが使用できないトイレや浴室に直面するたびに、「バリアフリー情報を網羅するサイトがあれば」という思いを強くしていったのです。
3年の準備期間を経て実現
本業の建築業務の傍ら、2021年から3年にわたる準備期間を経て、ようやくサイトの開設にこぎ着けました。すでに利用した障害のある人や介助者からは、「安心して宿泊先を探せるようになった」「あきらめていた旅行を再び計画できるようになった」といった喜びの声が数多く寄せられています。
この取り組みは高く評価され、愛知県が先進的な事業者の事例を表彰する2025年度の「あいちサービス大賞」において、最高賞である知事賞に選ばれました。これは、社会的なインパクトと実用性が認められた証と言えるでしょう。
課題と今後の展望
一方で、阿部さんによると、宿泊施設側から「障害者を受け入れる態勢が整っていない」として、サイトへの掲載を断られるケースも少なくないとのことです。こうした現状を変えるため、同社では従業員向けの研修も実施しています。「障害者とどう接したらいいかを知り、身構えずに対応できるように意識を変えてもらえれば」と、阿部さんは業界全体の意識改革に期待を寄せています。
今後は、掲載施設の数をさらに増やすとともに、機能の拡充を図り、より多くの障害者や高齢者が利用しやすいプラットフォームへと発展させていく方針です。2026年のアジアパラ大会に向け、愛知から全国へと広がるバリアフリー環境の整備が、このポータルサイトを通じて加速することが期待されています。



