高市首相の圧勝と政治路線の岐路
自民党の衆院選圧勝が確実視された2026年2月8日夜、高市首相はミラノ・コルティナ冬季五輪で金メダル第1号を獲得した木村葵来選手にお祝い電話をかけた。首相は「日本中に大きな感動と勇気を与えた。改めて日本人の底力を感じ、誇らしい」と述べ、日本や日本人の「底力」という言葉を強調した。この表現は、小泉、安倍、麻生の歴代首相も頻繁に用いてきたが、高市氏が「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」などのフレーズと合わせて発すると、愛国心やナショナリズムといった国家をめぐる主張がより鮮明に感じられる傾向にある。
海外メディアの警戒感と「右傾化」論
今回の選挙結果を受け、海外メディアの多くは高市首相を「タカ派」や「右翼」と位置づけ、日本を一層「右傾化」に導く可能性を指摘している。例えば、米国の伝統的教養誌「ニューヨーカー」は2月9日付電子版で、「日本の右傾化を主導する女性」と題する対談記事を配信した。記事では、「日本では中国に対する経済的・軍事的な不安が大きい。高市氏は中国に毅然と立ち向かう意思を持つと見なされ、一種のナショナリズムを喚起している。そのタカ派的姿勢は、ナショナリズムという言説に合致している」と分析している。
有権者の多様な支持基盤とナショナリズムの複雑さ
しかし、実際の有権者層を見ると、高市氏の保守的な政治姿勢や政策を支持する人々だけでなく、アイドルへの熱心なファン活動、いわゆる「推し活」のような人々も多く含まれているとされる。彼らは高市氏の歯切れの良い弁舌や未来志向の明るさに惹かれており、海外の見方とは微妙に異なる視点を持っている。
そもそも「ナショナリズム=右翼」という捉え方は、やや乱暴である。政治学者の中井遼氏は、ナショナリズムは右だけでなく左にも存在すると説く。中井氏は著書「ナショナリズムと政治意識『右』『左』の思い込みを解く」で、「歴史的には、戦後しばらくナショナリズムや愛国が左派の専売特許であった時期もあった。個人主義を志向する右派・保守派に対し、『民族』の団結や真の愛国心を称揚したのはむしろ左派政党であった」と指摘している。
さらに中井氏は、ナショナリズムを構成する3要素として、〈1〉国や民族への帰属意識、〈2〉ナショナルプライド(愛国心)、〈3〉排外主義に着目する。高市氏に色濃く見られるのは、〈1〉と〈2〉ではないだろうか。これを単純に「右翼」や、内外で危険視される「極右」と直結させるのは適切ではなく、より丁寧な考察が必要である。
中曽根・安倍長期政権の共通項と教訓
高市首相の今後の政治路線を考える上で、中曽根康弘元首相や安倍晋三元首相の長期政権の共通項から学ぶべき点は多い。両政権は以下のような特徴を持っていた。
- 強いリーダーシップと国家戦略の明確化
- 経済成長と安全保障の両立を目指した政策
- 国際社会での日本のプレゼンス向上への取り組み
これらの要素は、健全な保守路線として評価されることもあれば、右傾化と批判されることもある。高市首相がどのような道を歩むかは、ナショナリズムの要素をどうバランスさせ、有権者の多様な期待に応えられるかによって決まるだろう。
海外メディアの警戒感を払拭しつつ、国内の支持を維持するためには、中曽根・安倍両政権の成功と失敗から学び、日本独自の政治的アイデンティティを構築することが重要である。高市首相の圧勝は、単なる右傾化ではなく、新たな保守政治の可能性を開く契機となるかもしれない。



