谷垣禎一元総裁が語る自民党の岐路 政治安定への道筋と保守の再定義
谷垣元総裁が語る自民党の岐路と政治安定への道筋

自民党の岐路に立つ政治の安定性

自由民主党は、一昨年の衆議院選挙に続き、昨年の参議院選挙でも敗北を喫した。この結果を受け、石破茂前首相が退陣し、昨年10月の総裁選挙を経て高市早苗氏が新総裁、そして内閣総理大臣に就任した。一連の政治変動は連立政権の再編を引き起こし、従来の公明党に代わり日本維新の会が新たな連立パートナーとなった。日本の政治体制と政策推進力は、今、大きな転換点を迎えている。

高支持率と党信頼の乖離

谷垣禎一元総裁は、高市首相の内閣支持率が極めて順調である一方、自民党の政党支持率が同様に伸びていない点を指摘する。「自民党の時代は終わったのか、それとも不死鳥のように復活するのか、まだ分からないことが多い」と述べ、党にとって重要な局面が続くと強調した。数年前から、当選1回や2回の若手議員から「若い有権者が自民党から離れている」「参政党に支持基盤を浸食されている」との声が上がっており、こうした危機感が衆参両院選での敗北に表れたと分析する。

世界構造の変化と政治の難しさ

谷垣氏は、自民党が支持を失った背景には世界構造の根本的な変化があると指摘する。冷戦終結後の楽観的な秩序構想が曲がり角に来ており、ロシアのウクライナ侵攻、米国の保護主義的動向、中国の覇権主義的振る舞いなど、国際的な協調体制が揺らいでいる。こうした中で、物価上昇やエネルギー価格高騰といった国民生活への影響が政治への不満として表れているが、「この薬を飲めば治る」ような単純な解決策は見出しにくい状況だと語る。

特に、バブル崩壊後の「失われた30年」を経験した比較的若い世代は、「政治の根本がうまくいっていない」との思いを強くしており、これが選挙結果や移民問題を巡る議論など、様々な形で表出していると分析する。

問われる政治技術と連立運営

参院選敗北後、自民党は総裁選の実施や新連立パートナーの探索に時間を要し、政策作りの日程が逼迫している現状がある。谷垣氏は、高市首相が経済財政政策や外交安全保障政策で方向性を示しているものの、それを具体的な政治プロセスとして円滑に実現できるかは不透明だと指摘する。新年度予算編成や法案提出、国会運営において、維新の会との協力関係をどう構築するか、野党の説得をどう進めるかが課題だと述べる。

「自民党がこう決めたら進むという時代ではなく、互いに説得し合意を形成する政治技術が求められている」と谷垣氏は強調する。野党側も一致して自民党を倒そうという流れにはなっておらず、相手の考えを理解し意思疎通を積み重ねる対話が重要だと説く。

公明党連立の経験と維新の会との新関係

長年にわたる公明党との連立政権について、谷垣氏は「互いに汗をかいて努力したから続いた」と振り返る。公明党が連立を離脱した際には不安を感じたが、政党間の対話と信頼関係の構築がこれまで以上に必要になると指摘する。維新の会は大阪の自民党地方議員を中心に結成された経緯があり、通じる部分も多いかもしれないが、未知数の要素も多く、苦労する場面も出てくるだろうと予測する。

保守の再定義と政党の役割

谷垣氏は、自民党の原点について、戦後日本の発展過程で国民皆保険や皆年金といったリベラル的政策も取り入れながら、国内の対立をある程度飲み込んできた点を指摘する。これはイギリスや米国の保守勢力とは異なる日本の特徴だと説明する。転換期を迎えた今こそ、日本の政治の大きな方向性について、若い政治家や有権者の参考になるような議論を深めるべきだと訴える。

また、平成の政治改革で議論された政権交代可能な2大政党制の姿は今も見えず、新しい連立のあり方や政策決定の仕組みを考える中で、ふさわしい選挙制度についても議論すべき時期だと述べる。中選挙区制をブラッシュアップさせることにも利用価値があるのではないかとの見解を示す。

政治家の成長と国民との対話

「政治家は国民との対話の積み重ねの中で育つものだ」と谷垣氏は強調する。消費税導入時には街頭で罵声を浴びた経験もあるが、話し終えた後に「あなたの言っていることは正しいと思う」と声をかけてくれた市民もいたという。世の中の議論が荒れる中でも、政治家は恐れず有権者と向き合い、場数を踏むべきだと説く。

真に頼りになる政党は一朝一夕に生まれるものではなく、国民との対話の繰り返しの中で、時にもみくちゃになりながら政治家は成長し、国民もその力量を判断していく。これが民主主義のプロセスだと語る。

組織としての自民党の課題

政治資金問題を契機にほとんどの派閥が解散した現在、自民党の組織運営にも課題があると谷垣氏は指摘する。派閥には永田町での振る舞い方や有権者との接し方など、多くの経験知が蓄積されており、こうした知恵をどう次世代に伝えていくかが重要だと述べる。加藤紘一元幹事長から「派閥を超えて尊敬できる人を観察しなさい」と教えられた経験を振り返り、縦・横・斜めの人的つながりが政党の幅を広げると語る。

前向きな姿勢で難局に挑む

最後に谷垣氏は、政治の力量が試されているのは日本だけではなく、こうした危機の時代は歴史上何度も訪れてきたと指摘する。「どんな時も口笛を吹いていこう」という前向きな姿勢を忘れず、深刻になりすぎずに取り組むことの重要性を訴える。過渡期の難しさを認めつつも、未来志向で政治の安定を取り戻す努力が求められていると結んだ。