カナダのマーク・カーニー首相は、1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)において、大国による強引な行動が国際社会で顕著になる中、中堅国がどのような道を進むべきかについて演説を行いました。その内容を詳しく読み解いていきます。演説の動画は、首相名と会議名で検索することが可能です。
世界秩序の崩壊と中堅国の役割
カーニー首相は演説の冒頭で、今日は世界秩序の崩壊、すなわち心地よい虚構の終わりと厳しい現実の始まりについて語ると述べました。地政学において、強大な主要国がいかなる制限も制約も受けていない現状を指摘しました。一方で、他の国々、特にカナダなどの中堅国は無力ではないと強調し、中堅国には人権の尊重、持続可能な開発、連帯、そして各国の主権と領土の保全といった価値観を包含する新たな秩序を築く力があると訴えました。
演説の背景と意図
カーニー氏がスイスのダボスで演説を行った1月20日は、トランプ米大統領の就任からちょうど1年後にあたります。この演説は、輸入品に一律の関税を課し、カナダに対しては「51番目の州になれ」と迫るなど、横暴とも言える野心をむき出しにする隣国アメリカを強く意識したものとなっています。
演説の抜粋部分は、カナダの公用語の一つであるフランス語で話され、その後英語に翻訳されています。「rupture」という言葉は、平和や協定の破棄を意味し、心臓の血管が破裂する様子などにも使われることから、突然の深刻な危機に陥る状況を思わせると、米国出身の同僚は解説しています。「geopolitics」は地政学、つまり地理的要因を含めた国際関係を指します。「intermediate power」は中堅国と訳され、「main power」(大国)との対比で用いられており、直後の「powerless」と併せて「power」を軸とした表現になっています。「encompass」に含まれる「compass」は、円を描く道具の名称でもあり、「en-」は中を指すことから、囲い込みや包み込む動きを連想させます。
中堅国の現実直視と協調の呼びかけ
冒頭から厳しい調子の演説の主題は、中堅国が現実を直視しつつ、協調して大切な価値観を守ろうという呼びかけです。カーニー氏は具体例や対応策を示し、カナダの針路と決意を述べています。その第一歩として、「弱い国の力は誠実さに始まる」と、米国を強烈に意識した言葉を発しました。しかし、有言実行が難しいのは世の常です。
カーニー氏はさらに、「平穏を保つために周囲に同調し、波風を立てないよう妥協し、従順でいれば安全を買えるのではないかと期待する。多くの国々には、こうした強い傾向が見られます」と述べました。「go along」は一緒に進むこと、「get along」はうまく付き合うことと訳せますが、言葉遊びも含まれており、微妙な違いを表現するのは困難です。迎合すればうまくいくのかという問いに対し、カーニー氏は「残念ながら、そうはいかないでしょう」と釘を刺しました。これは「従順であれば安全を買えるわけではない」、つまり保身を当てにして大国に追従しても望む結果は得られないという意味です。
ハベル氏の書籍に言及
では、どうすればよいのか。ここでカーニー氏は、チェコ共和国の初代大統領となったバツラフ・ハベル氏が1978年に著した書籍に言及し、「なぜ共産主義は維持されたのか」という問いに対するハベル氏の説明を引用しました。ハベル氏は、人々が虚偽のシステムに自ら参加することでシステムが存続したと論じています。カーニー氏はこの考えを現代の国際関係に応用し、大国の行動に黙従することは、結果的に望ましくない秩序を永続させることになると警告しました。
この演説は、中堅国が自らの力を認識し、誠実さと連帯をもって新たな秩序を構築する重要性を強調するものでした。カーニー首相のメッセージは、国際社会における多国間協力の価値を再確認させるものとなっています。



